今シーズンは完全に趣味で選びました! 2020年冬のアニソン10選! 出口博之の「いいから黙ってアニソン聴け! in 2020冬」
全国1千万人のアニメソングファンの皆様こんにちは、流浪のベーシスト、アニソン・特撮楽曲特化型DJの出口博之です。四半期に一度やってくる「いいから黙ってアニソン聴け!」、今回は2020年冬アニメの陣でございます。
今期は作品全体的に「刺さる人にはものすごく刺さる」という傾向が昨年よりも強くなって、より多様化、細分化が進んだような印象があります。依然として異世界もの作品の人気が高いですが、どの作品も個性的で同じジャンル内での被りがほぼありません。漫然とアレもコレもと見るのではなく、「これだ!」とバッチリ自分のチューニングに合う作品を選んで深く視聴していくのが今のアニメの楽しみ方のスタイルなのかもしれません。もちろん、できる限りたくさんの作品を追いかけるのも楽しいですが、今やアニメは情報戦の様相を呈する勢い。アニメ「だけ」見ているのではなく、作品の外側で起こることも含めて深く追いかけるのが今の楽しみ方といえます
これはアニメに限らずエンタメに関係する全てのジャンルに言えますが、近年は点の爆発力ではなく、線や面での押し広げ、拡張が重要視されるようになりました。アニメ作品においては基本的に漫画やラノベが原作にあって、そこに発言力、影響力のある監督や声優さんたちが関わり、意外な組み合わせと思われるミュージシャンが主題歌を担当するなど、ひとつの作品でもさまざまな階層が重層的に重なっていることをエンタメとして発信しています。
そういったショービジネス的戦略の中で、原作がついていないアニメ作品には「完全オリジナル」という武器が備わるのがなかなか面白い(このあたりの話は長くなりそうなのでまたの機会に)。
いずれにせよ、10人いれば10通りの今期1位があがる多様性が今期の特徴であり、それはそのまま音楽のほうにも当てはまることだと思いました。
それでは前置きが長くなりましたが、今期アニメ作品から選出した10曲はこちら!
OP「ミスターフィクサー/Sou」
OP「Easy Breezy/chelmico」
OP「おーばーらぶ/うづほ」
OP「ありがとうはこっちの言葉/森山直太朗」
OP「ムズイ/22/7」
OP「イニシャル/Poppin'Party」
OP「Take mo' Chance/all at once」
OP「LION/坂口有望」
OP「PARADOX/雨宮天」
OP「wit and love/謎女」
今回は悩まず選曲できましたが、偏りというか私の趣味がいつも以上に出ている気がします。
先にも述べた通り10人いれば10通りの今期1位があるように、今期は10曲選ぶとしても人によってかなり違いが出ます。
出ます、とか得意げにドヤ顔でいうのが恥ずかしいくらい当たり前のこと。しかし、昨年末のBAN BAN BAN鮫島さんとの2019年のアニソン振り返り対談でも「このクールはこの曲だよね!」と個人の好みを越えた部分でみんなが選ぶ曲、というのが必ずあったんです。そういった大勢巻き込み型の曲が、今期は少ないように感じました。
その分、好きな人に対する訴求力が異常に高い曲が揃っている。ですので、いつもは選曲にある程度のテーマ性というか、基準値みたいなものを設定していたんですが、今回は一聴して「これ好きだわー!」という曲を選びました。大きなテーマで選曲し論ずるより「いい!」と思った楽曲を選出したほうが今期らしい、という判断で進めていきます、2020年!
最初は「映像研には手を出すな!」のOP曲「Easy Breezy」
イントロのスライドギターのサンプリングからすでに強い曲の手応えを感じます。Run-D.M.C.やBeastie Boysの系譜を受け継ぐオールドスクールなロックのサンプリングに鋭いビートを重層的にオーバーラップさせた楽曲(この場合トラックとするべきか)。カジュアルでニュートラルなたたずまいのchelmicoのラップは、かつてヒップホップをどメジャーに引き上げてお茶の間レベルにまで浸透させたスチャダラパーのポピュラリティに通じるものを感じさせます。やってることはストイックでマニアックなのに、アウトプットするといびつなポップに変容するのが面白い。新しい時代のポップ感覚というか、InstagramやTikTokに慣れ親しんだ世代にフィットするファニーでキッチュなセンスがこの曲の本質ではないでしょうか。
「ID:INVADED イド:インヴェイデッド」のOP曲、「ミスターフィクサー」も新しいポップ感覚がテーマとなるような楽曲。
16分のハネたビートにクラシカルなピアノは珍しい組み合わせで、同じようなジャンル間の楽曲が多い中、際立った印象を受けます。歌詞とメロディの情報量が濃密すぎるので、一聴しただけでは全容を把握するのは難しい。しかし、その膨大な情報量の波の間にメロディの起伏にシンクロする形で言葉が耳に飛び込んでくる感覚は現代っぽさがあります。みんなが好きな音楽、みんなが聴く音楽というような、楽曲に対してリスナーが多数の構造ではなく、楽曲とリスナーが1対1で向き合っていることを前提としているような姿勢があります。みんなで一緒に歌おう!ということではなく、僕が、私が聴く音楽である、ということ。言い換えればこれは多様性の肯定であり、今の時代だからこそ生まれた楽曲なのです。
「22/7(ナナブンノニジュウニ)」「ムズイ」。
まさか自分がこの作品の曲を選ぶとは思いもよりませんでしたが、楽曲はいい曲ですし、作品自体の仕掛けが面白かった。いまさら説明するまでもありませんが、ご存知の通り、日本のアイドルビジネスの雛形を作った秋元康氏が手がけるデジタル声優アイドルプロジェクト「22/7」(ナナブンノニジュウニ)。曲調や彼女らが着る制服を下敷きとした揃いの衣装から、「乃木坂46」、「欅坂46」などの坂道シリーズが雛形になっているのがわかります。聞き覚えのある、どこかで見たことがあるといった、普段なら被りとして避けるべき方法論を意図的に取り入れ、アニメ含め展開する二次元全般に「あたかも昔からそこにいたような存在感」を印象付ける仕掛けはすごい。初めて見るのに、ずっと前から知ってる気がする。そして、それをずっと好きだったような気がする。そう思わせる強い磁場がある。
もう1曲、ここを選ぶとは思わなかったのが「おーばーふろぉ」OP曲「おーばーらぶ」
ちょとムフフ(さすがに古い)なアニメなので、私の好み(女っ気のない熱血バトルものが大好物。「男塾」とか)ではなかったのですが、曲が抜群にいい。古来よりアニメソング界には「モータウンビートのアニメソングは名曲」という約束事があるのですが、この曲もやはり名曲の風格を持っています。特に素晴らしいのが楽曲に彩りを与えるギターの仕事ぶり。基本的にジャジーでありながら、オブリから動きのあるコードバッキング、ソロではロックに寄ったアプローチをするなど、どのセクションにも聞きどころがあり、その躍動感が曲にほどよいテンション感を与え、気持ちいいグルーヴが生まれている。地味ながらベースのドライブ感も玄人好みのよさがある。表面的にはかわいらしい曲ですが、その奥にはプレイヤーの職人技が光る、聞き応え抜群の曲です。どことなく90年代の空気を感じるところも素晴らしくいい。
「ぼくのとなりに暗黒破壊神がいます。」のOP曲、「Take mo' Chance」
この曲も90年代の匂いがするサウンド。私たち(アラフォー世代)の青春時代が蘇るような洋楽ライクなアレンジは、いい意味でレトロフューチャーな感覚があり、それが新鮮に聞こえるのは面白い。最近はファンクを下敷きにした楽曲が多いですが、トーキングワウを用いたリフやファンクの教科書の最初のページに出てくるようなオールドスクールスタイルのカッティングなど、70年代ソウルファンクのうま味詰め合わせになっているのは注目すべきところ。トーキング系のフィルターは久しぶりに聞いたけど、やっぱり音楽的に変だ。変だから、フレーズやアレンジとうまく合致するととんでもない効果を発揮する。その好例がイントロのリフに現れています。60~70年代ソウルファンクを下地にダンスミュージックの再構築を図る流れは、先述の通り90年代に一度行われています。アニメソングにこの手法が多く見られるということは、80年代リバイバルブームを経て、いよいよ90年代リバイバルが現在の音楽シーンに本格的に到来することを示唆しているのかもしれません。
「ソマリと森の神様」のOP曲、「ありがとうはこっちの言葉」
いい。素晴らしくいいです。時間にして約90秒ほどの短い時間の中に1本分の映画に匹敵するストーリー性がある。それが映像と完全にシンクロし、極端に言えば本編以上に作品のよさが十分に伝わる「もうひとつのお話」としてオープニングが完成されていることから、本編への強烈な引き込みとなっています。森山直太朗氏の情感豊かな表現力と、その表現力を最大限に生かすことのできるライティング力が合わさってアニメソングでありながらほかのアニメソングと比較できない曲になっている。ほかのアニメソングのレベルが低いとかそういった低次元のお話ではなく、比類ないほどアニメ作品との歩調が完璧に合った「作品のためのアニメソング」ということ。ジブリ的、あるいはディズニー的と形容することができますが、そういった劇場映画の世界観やスケール感と並ぶ強度があり、地上波で深夜放送しているアニメとしては規格外のスケール感があります。
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