「xxxHOLiC」は構図によって、秩序と混沌、神秘と通俗を描き分ける【懐かしアニメ回顧録第64回】
水島努監督による「劇場版 SHIROBAKO」が公開中だ。そして、00年代から多数のテレビアニメを監督してきた水島監督が、CLAMPの原作を得て、2006年に監督した作品が「xxxHOLiC」(ホリック)だ。
普通の人の目に見えない魔物や邪霊が見えてしまう高校生の四月一日君尋(わたぬききみひろ)は、都会の中にひっそりとたたずむ怪しい館に入り込んでしまう。館の主人は、壱原侑子(いちはらゆうこ)という神秘的な美女であった。侑子は、君尋を苦しめていた邪霊を祓うかわりに、彼をアルバイトとして強引に雇う。
第1話「ヒツゼン」では、君尋と侑子との出会いが描かれる。コミカルなやりとりが主体だが、侑子は人間界からは見えない神秘的な事象に詳しい、特異なキャラクターだ。コミカルな部分と怪しいシリアスな部分、その両面を短い時間で視聴者に印象づける必要がある。
まるで「シャイニング」のような、象徴的な構図
さて、第1話冒頭で君尋は自分の意志に反して、侑子の館に引き寄せられてしまう。待っていたかのように君尋を迎え入れるのは、マルダシとモロダシという2人の不思議な少女である。
侑子の館の扉が開くシーンから、シンメトリー(左右対称)の構図が増えていく。
シンメトリーの構図といえば、スタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」で、双子の少女が廊下に立っているカットが有名だ。まったく同じように、マルダシとモロダシも開け放たれた玄関の前に、左右対称に並んで立っている。
君尋はマルダシとモロダシに両腕を引っ張られて、館の奥へと引き込まれてしまう。その数カットは、斜めや真横から撮った普通のアングルで、シンメトリーではない。
ところが、侑子のいる部屋のふすまの前に君尋が立ったとき、再び構図はシンメトリーとなる。ふすまには、君尋の影が落ちている。そのカットも、やはりシンメトリーだ。
続いて、マルダシとモロダシが画面の左右からふすまを開く。開かれたふすまから、侑子の姿を見て驚く君尋。ここまで計5カットも、シンメトリーの構図が続く。
そして、上記カットには、侑子のセリフが重なる。
「それが、必然だったから……。あなたが、ここを訪ねることが」
君尋と侑子の会話は、オーバーな動きやギャグの要素も多いが、君尋が出て行こうとすると、勝手にふすまが閉まる。君尋は画面左側に位置しているが、背景のふすまは、やはり完全なシンメトリーで描かれている。そして、侑子は「……言ったでしょう? 必然だって」と、君尋に告げる。
つまり、どれほどギャグっぽい会話が交わされようと、侑子が「必然」と口に出すとき、決まって構図がシンメトリーになるのだ。
侑子を「シンメトリー」の構図に入れない理由とは?
シンメトリーの構図は、左右の均衡がとれていて、秩序を感じさせる。
神社仏閣、キリスト教の教会、イスラム教のモスク、ほとんどの宗教建築は左右対称であり、真正面から見ることができるよう建てられている。
「xxxHOLiC」に限らず、アニメや劇映画は、斜め45°の角度から人物をとらえ、2人以上のキャラクターが画面に入るときは、6:4か7:3の収まりのいい比率で配置する。
しかし、真正面から人物や建物をとらえると画面は必然的にシンメトリーとなり、そこに何か宗教めいた秩序、象徴的な意味が生じてしまう。「シャイニング」の双子が怖いのは、左右対称に並ぶことで、得体の知れない意味を帯びてしまうからだ。
第1話「ヒツゼン」のラストで、侑子は館を出ていく君尋に、「あなたと私の出会いにも意味があるのよ」と語りかける。彼女の言葉を裏づけるかのように、このシーンの構図もシンメトリーだ。つまり、映像作品ではいくらセリフで「意味があるのよ」と言わせても効果は薄く、構図によって意味を与えなくては、説得力が出ないのだ。
そういう意味では、もしかするとシンメトリー以上に、注意すべき構図がある。
ふすまの開いた奥にいる侑子は寝椅子に体を横たえており、顔を斜めに傾けて、流し目で会話することが多い。あらかじめ、シンメトリーになりづらいポーズ、表情をしている。なぜなら、侑子は謎めいた存在でありながら、酒好き・宴会好きという人間的な部分を持っているからだ。侑子の通俗性を描くには、過剰な「意味」を与えてしまうシンメトリーは避けたほうがいい。構図を選ぶことで、キャラクターの性格を描き分けることさえ可能……、それが映像作品ならではの面白さだ。
(文/廣田恵介)
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