「ドロヘドロ」の現場スタッフが語る“3DCGアニメ表現の現在とこれから”【アニメ業界ウォッチング第64回】

林田球氏の漫画をTVアニメ化した「ドロヘドロ」が、最終回を前にして絶好調だ。魔法で頭をトカゲにされた男・カイマンが、武闘派ヒロインのニカイドウとともに魔法をかけた犯人を探すバディ物でありアクション物であり、コミカルな要素も大きければグロテスクな要素もいっぱい、展開はスピーディーかつ予想がつかない。3DCGと手描き作画が混在し、勢いがある。
このエネルギッシュな作品を最前線で制作する画面設計兼クリエイティブプロデューサーの淡輪雄介さん(MAPPA)と、現場を支えるアニメーションプロデューサーの野田楓子さん(MAPPA)に、お話をうかがった。

“手描きっぽい3DCGキャラクター”の作り方


── 「ドロヘドロ」のアニメ化企画は、何がキッカケだったのですか?

淡輪 2017年の春ごろ、東宝さんからアニメ化企画のお話が来ました。原作漫画はまだ連載中で、そろそろ終わるというタイミングでした。どうやって原作の雰囲気を残したまま映像として成立させるか考えた時に、3DCGベースなら勝算があるなと思いました。

野田 原作の「ドロヘドロ」を好きな方が、MAPPA社内だけではなく、業界内には多いようです。ですから、もしこの漫画をアニメ化するのであれば、中途半端なものにはしたくないという思いを、みんなが抱いていました。もしカイマンのウロコを作画で動かそうとしたら労力がかかるだけで効果を得られず、結局はクオリティが下がってしまう。林田球先生の絵を見ただけで、それは理解できました。

淡輪 私も原作漫画が大好きだったので、具体的に企画が来る何年も前から、「アニメ化するならこうしたいな」と、個人的に想像はしていたんです。

野田 誰もが、「この原作の背景は木村真二さん(本作では世界観設計・美術監督として参加)だろう」と、具体的にお名前を思い浮かべていましたね。

淡輪 この業界に入って最初に参加した作品がSTUDIO4℃の「鉄コン筋クリート」(2006年)でした。そこで木村さんの背景と仕事に衝撃を受け、この世界観の「ドロヘドロ」を見たい! 作りたい!と勝手に思っていました。今回ご参加いただけて、本当にうれしかったです。

── 「ドロヘドロ」のキャラクターには、手描きっぽいタッチが入っていますね。やはり、原作の絵を意識してのことですか?

淡輪 はい、もし手描きを前提にキャラクターデザインを起こすとしたら、線を整理せざるを得ないんです。原画を描いたり動画を割るために線を整理すると、どうしても原作からイメージが離れてしまいます。だったら、3DCGのキャラクターに、手で描いたタッチをテクスチャとして貼ったほうが原作のイメージに近づける、そう判断しました。固定影なども手で描いて、CGではあるけれど“絵”としてのキャラクターづくりを目指しました。

野田 藤田、恵比寿、ニカイドウなど、生身の人間のモデリングが上がってきたとき、とても作画っぽいと感じました。

── 作画っぽいCGモデルということですが、何か特別な処理を施したのですか?

淡輪 3DCGでは左右対称をベースに、きれいにキャラクターを作ります。そのきれいに作られたモデルをアニメーターがフォルムに変化をつけて動かしていきますが、それだけではなく最終的にコンポジット(撮影)でも歪み処理を加えています。例えばカイマンのトゲはモデルでは直線的ですが、コンポジットで少しだけ歪めることで直線の要素が減り、手描きっぽく見えます。更に実線にノイズ処理を加えることで、アナログ風な質感にしています。

↑アナログ処理前

↑アナログ処理後

野田 あとは、影面にタッチ線を重ねているので、作画に近い感じになりました。木村さんの背景とも、マッチするだろうと思いました。

淡輪 3Dキャラクターは影をつけすぎると、ルックコントロールの難易度が途端に上がります。今回はライティングコストを抑えるため、順光の固定影を基本の影つけとして、必要な場合にライトによる影出しを行っています。

野田 岸友洋さんによるキャラクターデザインの段階で、原作の林田先生の絵とアニメとしての絵のうまい落としどころ、着地点が見えていましたね。

淡輪 原作の絵を見ると、線は多いですが影つけは意外とシンプルなんです。林田先生から「マスクの奥の目のまわりは暗くしてほしい」と要望があったので、そこに気をつけつつ、岸さんにフォルムやタッチの入れ方を監修してもらいながら、キャラクターを仕上げていきました。

── キャラクターの色については、いかがでしょう?

淡輪 キャラクターの色は、背景に合わせて決めていきます。背景の色数が多いと、キャラクターの色も多くなり、いろいろ遊べるようになります。逆に背景の色数が少ないと、キャラクターの色も、その範囲内で決めるしかないわけです。 原作の「ドロヘドロ」は全体に彩度が低めで、ピンポイントで彩度が高い。そのままの色味でアニメ化したら、見る人を選んでしまうかもしれないと思いました。原作サイドは「テレビで放送したい」との意向でしたので、だったら30分のテレビ番組として、原作を知らない人にも楽しんでもらえる画面づくりを最優先に考え、色彩設計の鷲田知子さんにまとめてもらいました。

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