WEBアニメ「愛姫 MEGOHIME」浅尾芳宣(プロデューサー/株式会社ガイナ・福島ガイナ代表取締役)×福田己津央(監督)×古里尚丈(アソシエイトプロデューサー)インタビュー

福島県三春町と福島ガイナおよびガイナが手を組んだWEBアニメ「愛姫 MEGOHIME」をご存じだろうか。同作は伊達政宗の正室・愛姫の生誕450年記念事業として制作されたもので、三春町を舞台に、美少女たちが操る戦国武将を模したAIが激闘を繰り広げるという異色の作品だ。 現在YouTubeで第2話までが公開されている。

豪華メンバーが並ぶ本スタッフの中でも注目すべきなのが、ガイナ作品で貞本義行さんが練り上げたベースアイデアを、「機動戦士ガンダムSEED」や「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」で知られる福田己津央監督が作品に仕上げるという魅力的なコラボレーションだ。今回は株式会社ガイナ・福島ガイナの代表取締役でもある浅尾芳宣プロデューサー、福田己津央監督、古里尚丈アソシエイトプロデューサーに「愛姫 MEGOHIME」に関するお話を伺った。



トップクリエイターたちが集うまで

──福田監督と古里さんといえば「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」や「GEAR戦士電童」からの盟友であり、サンライズをイメージする人が多いと思います。今回、ガイナ作品でこの座組が実現した経緯からうかがえますか。

浅尾 ガイナの前身となる福島ガイナックスは、2015年12月にガイナックスから独立する形で生まれました。その時の方針として、今までガイナックスではやっていなかったジャンルである子供向けのロボットアニメに挑戦したいと思ったんです。しかし、そのノウハウがなかったので、当時サンライズの社長だった内田健二さんに相談したところ、古里さんとつないでくださったんです。古里さんにチームに加わっていただいて企画を練っている時に、福島ガイナックスが拠点を持っていた三春町さんから伊達政宗の正室である「愛姫」をモチーフに何かやれないかというお話をいただきました。

浅尾芳宣プロデューサー

──作品の原案的な部分は貞本義行さんが担当されたそうですね。

浅尾 貞本さんには、福島の東邦銀行のCMを制作した時にキャラデザを担当していただいたんです。そのこともあり貞本さんにお願いできないかという話になりました。

古里 キャラとお話の原案が貞本さんで、1話に関しては貞本さんにはたくさんイメージボードを描いていただきました。それを福田さんがシナリオ、コンテに仕上げています。

浅尾 貞本さんからも作品に新しい色が欲しいということで、古里さんから福田監督をご紹介いただいたのが経緯になります。福田さんには、原案の貞本さんのアイデアやカラーをかなり立てて演出していただきました。

福田 それが仕事ですから。特に意識したわけではありませんが、カラーが出ていたのならよかったです。私は作品に求められていることを当たり前に演出しただけなので。

福田己津央監督

──貞本さんの元のアイデアがどういう形だったのか、うかがえますか?

浅尾 当初はお話の流れがわかりやすい作品というよりは、長い作品の要素を詰め込んだダイジェスト的なイメージで作りたいという感じでした。最初のコンセプトであがっていたのが、まさに第1話の内容なんです。第1話後半のバトルシーンについては、今までやったことがないものを見てみたいという貞本さんの要望を受けて、福田さんがうまく料理してくれました。

──密度の濃いプロットを、10分という尺の作品に落としこむのは大変だったのでは。

福田 どう10分という尺にまとめるかという部分はありましたが、貞本さんに意見を聞きながら進行していったので、取捨選択の決断を全部自分でしなくてもよかったのは楽でした。

──第1話のエンディングで愛とネネが子どもの頃に過ごした時間を絵で見せることで、限られた尺でネネの執着の理由を理解させる構成はとてもうまいと思いました。

福田 エンディングはもう、貞本さんにお任せでしたね。コンテから全部貞本さんです。

古里 幼い頃のキャラデザインからかわいいシチュエーションなど背景設定も含めて、全部貞本さんの作画です。貞本さんの原画は超久しぶりだから貴重ですね。

福田 エンディングは、貞本さんのこだわりがかなり入っていると思います。貞本さんは、本当はあのシーンを全部動かそうとしていたのですが、「それ、やったら終わりませんよ!」「無理ですよ!」と説得するのも僕の仕事でしたね(笑)。

古里尚丈アソシエイトプロデューサー



三春町の人たちに楽しんでもらうために

──「愛姫 MEGOHIME」はアニメ本編制作前にPVが制作されました。PVを見ると、仮想空間のゲームシステム上に構築された愛姫が話しているシーンがあるなど、アニメとはかなりコンセプトが違います。

浅尾 最初のプロモーション映像は貞本さんが入るさらに前で、三春町の方が考えた世界観をベースに映像にしているんです。

──三春町の中にこういったコンテンツが好きな方がいるのでしょうか?

浅尾 (三春町の担当者が)アニメが大好きな方なんです。愛姫は三春町の出身ですが、子供の頃にしか住んでいないんですよ。だから10代後半の、高校生ぐらいの年頃に成長した愛姫と三春の接点をどう持たせるか。そしてできれば現代の三春町も映像の中で見せたい。あの年頃の愛姫を描きつつ現代にもつなげるための方法論として、ゲームをインターフェイスに使ったということですね。

──その上で、アニメ本編ではモチーフとして武将の妻、戦国の女たちが前面に出ています。戦う少女たちの愛憎劇は古里さんや福田監督のお家芸のようにも思えますが。

福田 得意というわけではないですよ(笑)。自分としては「愛姫 MEGOHIME」は萌えアニメとしては作っていないですしね。

古里 確かに単なる偶然の産物、それこそ組み合わせの妙かなと。サンライズ時代「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」、「GEAR戦士電童」を福田監督と一緒に作った後、私は「出撃!マシンロボレスキュー」まで子ども向けの作品(のプロデューサー)をやり、福田さんは「機動戦士ガンダムSEED」の監督を務めました。その時に、私は「自分がやりたい作品って何だろう?」と考えたんです。すでにサンライズにはロボット物がたくさんあって、「カウボーイビバップ」のようなアクション物もあった。そこで、「それまでにないもの」として、美少女たちが戦う萌え的なんだけど燃えの作品「舞-HiME」「舞-乙HiME」を作りました。その第8スタジオの流れが、後輩のプロデューサーの作った「ラブライブ!」につながっていくわけですね。

浅尾 今回の作品は百合的な要素があるわけですが、この路線というのは、実は貞本さんがやりたかったんじゃないかと自分は思います。自分としては、そのジャンルが得意な古里さんがいてくれて、本当によかったなという感じです(笑)。

古里 今回、貞本さんがやりたい(?)と思った百合的要素と、私たちの集まり方は本当に偶然です(笑)。実は、貞本さんと打ち合わせしていると、今の流行りとは違う骨太SFや大河ドラマ的思考を持っているクリエイターさんだと思うことがあって、僕もその方向は大好きなのでとても共感できました。

──作品としてのターゲットはどのあたりを意識していますか?

福田 この作品は、町の公会堂で上映するわけですから、おじいちゃんから子どもまで楽しんで見られないといけないわけです。だから全年齢がターゲットです。おっぱいなんて揺れません。人も死なないし、血も出ません。

浅尾 第1話に関しては貞本さんの、話のわかりやすさよりも、とにかくかっこいいほうがいいでしょう!というところが出ているので、地元のおじいちゃんにはちょっと難しいところもあったんですね。そこで第2話からは、福田さんがお話の流れを作っていきましょうと提案してくれました。

福田 こういうことなのかい?と探りながらですね(笑)。

──福田監督と貞本さんが作りたいものをどのように探り、すり合わせて行ったかを教えてください。

福田 第1話も第2話も、貞本さんがやりたいものには必ずしもなってないかもしれません。初めてチームを組むんだから、全部がわかるわけじゃないので。お互いの趣味や嗜好、やり方が違うのは当たり前で、そのすり合わせを探ったのが第1話だったと思います。だから今思えばこうできたのかな、というところはたくさんありますね。

──第2話の、IXAシステムの巨大ロボットの格納庫とか、巨大な飛行物体が放つレーザーの感じとか、かなり80年代~90年代のガイナックス作品らしさを感じました。

福田 ただこの作品に関しては、パロディやオマージュはしてないです。それを望まれているとは思わなかったので。

浅尾 山より大きなものが浮上してくるのは、貞本さんとキャラクターデザインのアラキマリさんのアイデアです。だからそれはパロディというより、お2人がずっとやってきた中でのやりたいこと、作りたいものがそういうものなんだと思います。

古里 福田さんも、貞本さんもベテランですし、いろいろなノウハウがあります。また、見せ方などのテクニックも持っています。超巨大なメカが現れる表現方法など、普通にやっていると思いますね。


──学校や山が割れて巨大な何かが出てくるのは、キッズアニメや勇者シリーズなどに脈々と受け継がれてきた伝統でもありますね。

古里 必要なことを“普通”に作っているのが、福田さんであり貞本さんだと思います。ただカットカットで見るとガイナっぽいとか、アクションシーンはサンライズっぽいとか、福田監督のカット割りだ!など、それぞれ深堀りして見るコアな人がいると思うと、ありがたいです。

福田 アクションやメカにこだわりすぎると現場が崩壊してしまうので、その方面には全力は出していません。実は打ち合わせレベルでは貞本さんからもっとディープなアイデアも出てるんですが、最終的に三春町の皆さんが楽しんでもらえる作品に着地させないといけないので、どちらかというとオタク的な色は出さない方向でやっています。僕らも大概オタク気質ですから、無意識でもそういう色は出ますけどね、抑えようとしているということです。

古里 大きい何かが出てくる動きはゆっくりになるので、(作画の)枚数をかけると大変なことになるわけですよ。それをぐにゅぐにゅ動かしたり、CGを使うとさらにお金がかかってしまう。昔だったら止めハーモニーで、煙とかエフェクトを足して……みたいな手法があったわけですが。ともあれ、そういう制作上の意味があっての見せ方なので、僕にとって”普通”ってのはそういうことなんですよ。ただ実際にそのシーンを見ると1枚絵としてかっこいい! それは福田さん、貞本さんというプロが作っているからだと思います。僕ら制作はつい、カット数や枚数ばかりを気にしてしまうんですけどね(笑)。

福田 CGなんて(予算的には)もってのほかですよ(笑)。

古里 監督には予算、スケジュールなどのルールの中でやっていただきました。そのうえで視聴者が喜ぶことは何かを第一に考えてくれるので、プロデューサーとしては大変にありがたいことです。

──地元・三春町での反応はどうですか?

浅尾 子どもが喜んでくれていますね。もちろん町としてはたくさんの外の人が興味を持って、三春町に足を運んでくれるというのが大きな目的ではあるんですが、その手前に愛姫自体の認知度というものがあるんです。このプロジェクトが始まる前は、三春町の子どもでも愛姫を知っているのはかなり少なかったという状況があって、町の人は大変ショックだったらしいんですね。それがキャラクターを作り、アニメを作った今、三春の子どもにアンケートを取るとほぼ全員が愛姫を知ってくれている状況なんです。それが町としては一番やってよかったと言ってくれました。

完成が待ち遠しい第3話のヒントはすでに出ている!?

──自治体が参画したご当地アニメとしては、とても攻めた内容の作品だと思います。

浅尾 三春町を舞台にした作品ではあるけど、町をそのまま描くことが一番の目的ではない、ということは貞本さんが最初から話していました。

福田 でもロケハンに行ってるじゃない。

浅尾 そうですね。監督も真冬に、三春町まで一緒に行ってくれました。吹雪の中でしたね。だから町の人にとって思い入れがある場所は、結構入っていると思いますよ。特に第2話は監督がいろいろ考えてくれて、高校や病院、キャラクターが会話をするちょっとした町の三叉路などがそのまま描かれています。

──第1話では桜、第2話は梅の花が印象的に描かれています。これは桜、梅、桃が春に同時に咲くという、三春町名の由来がモチーフなのかなと思ったのですが。

浅尾 ああ、読みがすごい(笑)。それはその通りですね。衣装のデザインもそれに合わせてます。

──福田監督はロケハンに行かれてどうでしたか?

福田 何回か行っているんですが、三春はきれいなところですよ。ただロケハンしたところはアップダウンがきつくて、運動不足の自分にはこたえましたね。

古里 それこそ福島ガイナも行ったじゃない? あそこも面白いよね。

浅尾 福島ガイナの入ってる建物ってもともとは中学校で、震災後にしっかり整備したんですけど、少子化と震災の影響もあり廃校になってしまった場所なんです。せっかくなので今、我々はそこを使わせてもらっているんですが、周りに何もないのでアニメの制作に集中するにはいい環境だと思います。

古里 名所の滝桜まで歩いて行けますから、そういう意味でもいい環境ですよ。

福田 作業に集中するにはいいし、校庭や体育館もありますからね。さらに寝泊りできる環境も作って、福島でもっとたくさんの作品を作れるようにしたらいいんじゃないですか。やっぱりお金がしっかり回って人も回るのが一番の復興ですから。

──自治体と一緒にやる作品ならではの難しさなどはありますか?

浅尾 収益事業としての展開が、なんでもできるというわけにはいかないところですね。

福田 コンテンツ・ビジネスとして成立できるならば、全国的な展開もできるんだけどね。

浅尾 あとは「○○は壊さないでね」って依頼というか、お願いがあったり。

──大洗町の「ガールズ&パンツァー」などはむしろ壊してほしいという要望があるそうなので、自治体によって違いがあって面白いですね。

福田 壊しちゃったほうがいいと思うんですけどね、ゴジラなんてどれだけ建物を壊したことか(笑)。

浅尾 第1話でダムに攻撃が着弾してるんですけど、水柱が上がっているだけでダムは決壊していないんです。そこは監督たちがいろいろ考えてくれています。

──作品を彩る音楽についてはいかがでしょうか。

浅尾 音楽も貞本さんがこだわっているポイントで、ATOLSさんというボーカロイド楽曲などを作られている方に担当していただいています。貞本さんが和のテイストを入れつつも新しいミュージシャンとやりたいということで、ご自身で探してきました。音楽的なポイントとしては、第1話はBGMに切れ目がなくて、最初から最後までひとつの曲としてつながっているんです。第2話では、それをバラして劇伴として使っています。

古里 絵コンテを渡して、映像に合わせて楽曲を制作してもらってます。

──フィルムスコアリングに近い作り方なんですね。最後に第3話に向けた注目ポイントや意気込みなどをお願いします。

福田 なるべくみんなに喜んでもらえる全年齢向けアニメとして制作したいと思います。俺たちはいい作品を作りたいと思っていますが、今回は商品やグッズが売れることを目指す商業アニメとは違うアプローチで制作しています。だから面白かったし、勉強になりました。第3話までで物語としてのまとまりとなるように作っているので、ここまでの流れをきちんとまとめて、応援してくれる町の人に「最後がこれかい!」と言われないようにしたいと思います。

古里 第2話のポスターを見ていただきたいのですが、実はこのポスターに第3話の盛大なネタバレが隠されています(笑)。僕もびっくりしたので、お楽しみにしてください。

浅尾 町の人に愛される「愛姫」、三春町に足を運んでもらえる「愛姫」にしたいと思っているので、アニメの完成が終わりではなく、そこからまた始まるプロジェクトにしたいと思っています。応援よろしくお願いします。

最後になりますが、今年はオリンピック、パラリンピックイヤーということもあり、国内外からたくさんの方に福島に来ていただくお手伝いができればということで、毎年恒例のSF大会を福島の磐梯熱海温泉で行ないます。「愛姫 MEGOHIME」も福島発のコンテンツとして上映を行ったり、我々自身も地方とアニメ制作をテーマにしたゲストトークなどができればと考えています。もちろん福田監督や古里さんにも来ていただきたいということで調整していますのでよろしくお願いします!

引き続きアキバ総研では、貞本義行さんへのインタビューおよび貴重な原画、資料の掲載を行う予定だ。そちらもあわせてチェックしていただきたい。

(取材・文/中里キリ)

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