80年代のアニメとアイドル~女性声優ユニットの誕生を振り返る!【中里キリの“2.5次元”アイドルヒストリア 第1回】
今や定番ジャンルとしてアニメ、ゲームなどで数多くの「アイドル作品」が作られ、またアイドルを演じるキャストによるCDリリースやリアルイベントも毎月のように行われている昨今。
そんな2次元と3次元を自在に行き来する「2.5次元」なアイドルたちは、どのように生まれ、そしてどのようにシーンを形成していったのか。昭和、平成、令和と3つの時代の2.5次元アイドルを見つめ続けたライター・中里キリが、その歴史をまとめる新連載がスタート!
21世紀はアイドルコンテンツの世紀
平成が令和へと移り変わり、迎えた2020年という時代。アニメやゲーム、そしてスマホアプリの世界には、多くのアイドル作品があふれています。「アイドルマスター」「ラブライブ!」「アイカツ!」「プリパラ」といった“アイドル”をテーマにしたコンテンツに、一度は触れたことがある人が多いのではないでしょうか。
今年は「アイドルマスター」シリーズが誕生15周年、「ラブライブ!」シリーズが10周年を迎えるメモリアルイヤーです。裏返せばほんの15年前、今高校生の人が生まれた頃には、現行のアイドルコンテンツのほとんどは存在していなかったのです。2000年からの20年間、とりわけ2005年~2015年頃にかけての10年間はアイドルコンテンツという新たなジャンルがその土台を築き上げた特別な時代と言えるでしょう。
このコラムでは、アイドルコンテンツがどのように生まれ、育ち、派生していったのかの歴史の系統樹を、全体を俯瞰して語っていきたいと思います。
なお本稿では、タイトルに冠した“2.5次元アイドル”というワードについて、以下のようにざっくりと定義します。
・広い意味で「女性アイドル」をテーマにしたアニメ・ゲーム・コミック等の作品と、登場キャラクター、演者たち
・コンテンツとしてライブ、舞台などの生身の演者の表現活動を並行して行なっていること
・二次元サイド(アニメやゲーム)と三次元サイド(ライブや舞台)にクロスオーバーする要素があること
もちろん「ラブライブ!」のスクールアイドルたちも含みますし、作品の連なりを語る中で隣接ジャンルの作品についてお話しすることもあるかと思います。クロスオーバーに関しては、一番わかりやすいのは“出演声優自身がライブや舞台でもステージに立つこと”です。二次元と三次元が相互に影響し合う関係性を重視するため、いわゆる“実写化作品”と呼ばれる独立したドラマや映画作品は、基本的に対象としません。
以上を本コラムの前提とさせていただければと思います。まずは、さまざまなアイドルコンテンツが生まれる前史、1980年代のアニメとアイドルの関係性から語っていきます。
リアルアイドルを作品に持ちこんだ80年代
そもそも、“女性アイドル”という概念が生まれたのはいつ頃でしょうか。初期は歌手とアイドルの境界があいまいだったようですが、“一世を風靡する”女性アイドルが登場しはじめるのはキャンディーズ、山口百恵らがデビューした1970年代前半であり、その後も1976年にピンク・レディー、1980年に松田聖子がデビューします。アイドルが憧れの存在になるにつれて、その後を追いかけるように創作の世界でもアイドルをモチーフとした作品が生まれはじめるのは必然でした。
80年代までのアイドルを題材としたアニメといえば、「ピンク・レディー物語 栄光の天使たち」(1978)、「超時空要塞マクロス」シリーズ(1982~)、「魔法の天使クリィミーマミ」(1983)、「メガゾーン23」(1985)、「アイドル伝説えり子」(1989)、「アイドル天使ようこそようこ」(1990)といった作品が思い浮かびます。ひときわ異質なのは「超時空要塞マクロス」シリーズで、「SFメカと美少女」のモチーフにアイドルという題材を取り込んだ作品であり、スタッフに共通点の多い「メガゾーン23」もその系譜の作品と言えるでしょう。
もうひとつの系統は「魔法の天使クリィミーマミ」「アイドル伝説えり子」「アイドル天使ようこそようこ」といった、芸能界を描いたアイドル物作品です。女の子の憧れの対象として魔法少女アニメの系譜がありますが、80年代はキラキラした身近な異世界として芸能界、アイドルの世界を描く作品が生まれたのですね。この時代の作品はソロアイドルが中心です。
一見、まったく毛色の違う作品群ですが、80年代特有の共通点がひとつあります。それは、リアルアイドルとのタイアップや、キャストとしてのアイドルの輸入が目立つことです。「魔法の天使クリィミーマミ」ではアイドルの太田貴子が主人公のマミ=森沢優役として、「メガゾーン23」では主題歌アーティストと、時祭イヴ役の声優としてアイドルの宮里久美がデビューしました。声優出演ではありませんが、「アイドル伝説えり子」はアイドル・田村英里子、「アイドル天使ようこそようこ」はアイドル・田中陽子とのタイアップ色が非常に強い企画でした。80年代の多くのアイドルアニメでは、リアルアイドルの存在によって作中アイドルの実在性を補強していたんですね。
最初に名前をあげた「ピンク・レディー物語 栄光の天使たち」が、伝説のアイドル、ピンク・レディーをモチーフとしていることは言うまでもありません。1971年に虫プロダクションが制作した「さすらいの太陽」をアイドル作品の祖とする論考もあり、同作は歌手の藤圭子をイメージベースにしていると言われています(個人的には「さすらいの太陽」は芸能の世界に生きる少女たちのサーガ物であり、アイドル作品より「ガラスの仮面」などの作品と同じ文脈の中で語るべきだと考えています)。
作品ジャンルは異なりますが、アニメ「ハイスクール!奇面組」(1985)では、おニャン子クラブの派生ユニット「うしろゆびさされ組」が主題歌を担当し、メンバーの高井麻巳子と岩井由紀子はアニメ本編にも本人役で出演を果たしています。また、深夜アニメ「くりいむレモン レモンエンジェル」(1987)では、アイドルグループ・レモンエンジェルのメンバーを声優として起用し、BGMにもレモンエンジェルの楽曲を使用しました。レモンエンジェルのメンバーのひとり、櫻井(桜井)智は7年後の1994年に「赤ずきんチャチャ」のマリン役、そして「マクロス7」のミレーヌ・ジーナス役で声優として大ブレイクすることになります。
同時期のゲームの世界を見ると、こちらでも「中山美穂のトキメキハイスクール」(1987)、「ラサール石井のチャイルズクエスト」(1989)といった、実在アイドルとタイアップしたタイトルが目立ちますね。
80年代は、アニメやゲームといったコンテンツとリアルアイドルの親和性がとても高い時代でした。それはコンテンツサイドの要請であると同時に、時代を代表するようなビッグアイドルが不在となり、かつてのような別世界の神秘性やスター性が薄れてきたリアルアイドルサイドの悩みや、レコード会社が売り出し方に苦悩して試行錯誤する姿も見えてくるように思います。
女性声優ユニットという概念の誕生
1990年代の話に入る前に、80年代と90年代にまたがり、つなぐ作品としてアニメ「らんま1/2」(1989~)を紹介したいと思います。「らんま1/2」はアイドルの西尾えつ子や坂上香織、CoCoやribbonが主題歌を担当するなど、80年代的な座組みが目立つ作品です。しかし1990年、同作より「乱馬的企画音盤」の企画として、声優ユニット・DoCoが結成されます。ユニット名は主題歌を担当したCoCoのパロディであり、企画ユニットの色が強いですが、驚くべきはそのメンバー。早乙女らんま役の林原めぐみ、天道あかね役の日髙のり子、シャンプー役の佐久間レイ、天道なびき役の高山みなみ、天道かすみ役の井上喜久子というキラ星のような顔ぶれです。企画発のユニットではありましたが、後にアルバムもリリース、まさに女性声優ユニットの先駆けでした。
70年代にスラップスティック(男性声優バンド)、80年代後半にNG5(「鎧伝サムライトルーパー」発ユニット)と、一世を風靡した男性声優ユニットは存在していましたが、女性声優のユニットと歌にスポットが当たったのは大きな出来事でした。
リアルアイドルを声優として起用していた80年代に対し、90年代は声優が活動のフィールドを拡張し、アーティストとしての声優がチャートを席捲しはじめます。次回はそんな90年代に歴史の転換点となった、あまりにも“早すぎた”、とある作品を軸に語りたいと思います。
(文/中里キリ)
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