好きなキャラにおデコをぴたっ! 憧れのシチュエーションで胸キュンさせたい!「デコぴたっ!はたらく細胞 presented by パブロン」の裏側とは?【コラボのゲンバ第12回】
アニメや声優などのサブカルチャーとさまざまな業界のコラボレーションが活発化する今日この頃、「おっ!やってくれるな」「何?そうきたか!」とファンの心を刺激してくる商品、コラボ企画が続々と登場している。そこで、アキバ総研的に気になる「コラボ」の企画現場にうかがい、企画の魅力やおもしろエピソード、苦労話などの制作裏話を、あれこれ聞いてみよう!という連載が「コラボのゲンバ」だ。
第12回に登場するのは、公開中の「パブロン S ゴールド W」〈大正製薬(株)のかぜ薬〉と、TV アニメ「はたらく細胞」とのコラボレーション特設サイト「デコぴたっ!はたらく細胞 presented by パブロン」だ。
今回お話をうかがったのは、本サイトを企画担当した株式会社博報堂 第一クリエイティブ局 インタラクティブデザイン部 インタラクティブプラナーの松本祐典さん、統合プラニング局 デザイナー/アートディレクターの大場翔平さん、第一クリエイティブ局 インタラクティブデザイン部 コピーライターの松田綾乃さんらクリエイティブチームの3名。さまざまなコラボを展開する人気アニメ「はたらく細胞」との企画で心がけていたことやアイデアのきっかけ、収録現場でのこだわりや特設サイトの反響について、たっぷりと語ってもらった。
ここで、コラボの内容を簡単に説明しておく。「デコぴたっ!はたらく細胞 presented by パブロン」はスマートフォン専用のサイトで、アクセスすると、「はたらく細胞」の人気キャラクターである赤血球[CV:花澤香菜]、白血球(好中球)[CV:前野智昭]、血小板[CV:長縄まりあ]が、おでこを出した状態で画面に登場する。キャラクターのおでこにユーザーのおでこを当てると、キャラクターが至近距離から話しかけ、ユーザーの体調を気遣ってくれるというもの。
なおインタビュー内でも制作秘話として登場する、おでこを見せる赤血球、白血球(好中球)、血小板のイラストは、今回のコラボのために描き下ろされたという貴重なもの。風邪薬の成分や風邪のメカニズムについて学べる「おべんきょう」、風邪やパブロンに関するクイズ「パブロンクイズ」に挑戦することで、限定壁紙としてダウンロードできるというサイトになっている。
読む前に体験するもよし、読んだ後に改めて楽しむもよし!
ということで、インタビューをどうぞ!
おでこをあてて、胸キュンしてもらいたい!
—— コラボ企画がスタートした経緯を教えてください。
松本さん パブロンでのアニメタイアップは、今回が初となります。「『はたらく細胞』でパブロンを知っていただくには、どうしたらいいのか」というところからスタートしました。「はたらく細胞」はすでにいろいろなコラボをやっているメガコンテンツ。何か新しいニュースがないと世の中に反応してもらえないという気持ちはありました。そんなときに、松田が「キャラクターに"デコぴたっ"したい」と言い出して……。
松田さん アニメでもドラマでもそうなのですが、熱を測るのにおでこをぴたっとするのって、恥ずかしいけれど憧れるシチュエーションですよね。もし、自分が好きなアニメのキャラクターと"デコぴたっ"出来たら嬉しいんじゃないかなと思ったのがきっかけです。でも、どうやってそれを実現するかはわからなかったので、とりあえず「"デコぴたっ"したくないですか?」「どうやったら出来ますか?」と先輩に聞いていく中で、今回一緒に制作を進めるにあたってご協力いただいた面白法人カヤックのプロデューサーさんから「スマホならできるかもしれない」という話をいただきました。
松本さん 最初は屋外広告での展開を考えていました。キャラクターが立っていておでこをくっつけて熱を測るというものでしたね。
—— 屋外ですか。それはちょっとハードルが高いと感じる利用者もいるかもしれませんね。
松本さん 「センサーを使う」など具体的な案も出たのですが、それよりも熱を測ることはできないけれど、サイト上で「スマホで手軽に"デコぴたっ"」という胸キュン体験をしていただくほうがおもしろい、という方向に切り替えました。
—— 「胸キュン体験」というフレーズに抵抗はなかったのですか?
大場さん 全くありません! 僕たちもアニメが好きなので、楽しみながらやっていました(笑)。
松本さん 大正製薬のパブロン広告担当の方も「はたらく細胞」が大好きで、風邪の症状とかおもしろく紹介できると信じてくれていて。"デコぴたっ"のアイデアを出したときも、おもしろがってくれました。
松田さん 私たち「はたらく細胞」が好きなんです。すごくいいんです、という気持ちと熱量で押して企画を通しました(笑)。
松本さん 大正製薬さんも「企画書で初めて“胸キュン”という言葉を見ました」と面白がってくださって。最高の胸キュン体験を届けよう、という気持ちで制作がスタートしました。
—— 順調に企画が通りクライアントさんも乗り気であれば、制作時の苦労話はなさそうですね。
大場さん 企画を通す段階ではなかったですね。本当はおでこにつけて熱を測れるようにしたい、という気持ちもありましたが、フィジビリ(調査、検証)の段階でなくなった企画がたくさんある中で、周囲を暗くしてカメラを当てれば同じような体験が得られるというところにアイデアを昇華し、実現できたのはよかったと思います。
松本さん 体温を測る以上に、一般的なファンが求めているのはおでこをあてること。そうすることでキュンキュンさせたいというのが軸としてあったので、そこに特化することに決めました。
—— とはいえ、大正製薬さんとしては「キュンキュンだけでなくパブロンという商品を前に出してほしい」というリクエストがありそうですが……。
松本さん 「効いたよね、早めのパブロン」というおなじみのコピーには、「かぜの引き始めに早めのパブロンを!」という想いが込められています。"デコぴたっ"もサイトを開くと「かぜかな?と思ったら」と出てきます。これが企画のタイトルにも繋がるのですが、パブロンと"デコぴたっ"てすごく相性がいいと感じた部分でもあります。今回は、大正製薬さんの思いとして、パブロンのプロモーションということもありますが、風邪の時の体内の症状を多くの人に知ってほしいというものだったので。
—— なるほど。商品はあるけれど、商品ありきの企画ではなく、そういった目的、思いがあったのですね。パブロンを買わなくても"デコぴたっ"できるんだ、というのも最初に気になった部分でした。"デコぴたっ"体験だけでなく、イラストやクイズでもキュンキュン楽しめました!
松本さん おでこを出しているイラストは描き下ろしです。おでこを出すと提案するときに、原作サイドや講談社さんがどんな反応をするのか、正直気になりました。
大場さん 眉毛に重大な伏線があったらどうしよう、とかね(笑)。
松田さん 白血球(好中球)はおでこが見えないキャラクターなので、私たちもイラストが上がってくるのをすごく楽しみにしていたんです。
大場さん 「眉毛ないんだ!」ってね。
こだわりのセリフ収録!
—— アフレコの様子を教えてください。
松本さん 音にはすごくこだわりました。ダミーヘッドマイクを使って声の距離感を調節して収録しました。声の聞こえ方はとても重要な部分で、事前に音響制作会社のマジックカプセルさんとも綿密な打ち合わせもしました。「事前の打ち合わせは、初めてです」とも言われましたね(笑)。キャラクターの背の高さに合わせて、マイクの微妙な位置調整をしていきました。
—— 胸キュンなセリフ作りのお話もぜひ!
松田さん キャラクターが言いそうな言葉などを選びながら、原作サイドや講談社さんと、細かく確認していただきながら進めていきました。このセリフはキザすぎるから、そんな風に言わなそうとか。たとえキザなことを言わなくても、おでこをつけた状態で心配してくれるセリフを言ってくれたら、体験者はキュンキュンすると思っていたので、わりと実現しやすかったです。風邪の症状についてのセリフは、大正製薬様と詰めていく形です。
—— 特設サイト公開後の反響はいかがでしたか?
松本さん シェア数も多く、想定以上にメディアにも取り上げていただいたので、反響はよかったと思っています。アニメ第2期の放送に向けて、「はたらく細胞」の盛り上がりにも貢献できたのではないかと思います。
—— ファンの反応はいかがですか?
大場さん ひたすらエゴサーチしてチェックしましたが、ファンのみなさんがやさしいのか、いいコメントばかり書いていただきました。
松田さん このサイトからインスピレーションを受けて二次創作したという投稿もたくさんありました。そういう形でのシェアは初めてだったので、すごくうれしかったです。自分の好きなキャラクターに出てほしいという声も多かったです。
大場さん キラーT細胞やヘルパーT細胞への期待やコメントがたくさんありました。
松田さん キラーT細胞に関しては、おでこをあげている絵を描いている方も多かったです。
—— クライアント、メディア、ファンの反響もよいとなると、第2弾を期待してしまいます。パブロンは風邪薬なので、毎年この時期になったらあのサイトというイメージも定着しそうですね。
松本さん まだ、具体的な予定はないですが、期待の声をいただくのはとてもうれしいですし、キャラクターを拡充してストーリーもパワーアップして……という気持ちは秘めています(笑)。
—— パブロンには風邪薬以外もありますし、「はたらく細胞」との親和性も高そうですよね。風邪の時期だけでなく1年中使えるサイトになってほしいです。
松本さん 特設サイトでは、3月9日から花粉症編のデコぴたっ!ボイスに切り替わっております。まだ試していない方も、ぜひ体験していただければと思います。
アニメコラボを行う上で心がけることとは
—— ちなみに企画をやる前から作品のファンだったということで、皆さんの好きなキャラクターを教えてください。
大場さん 血小板ちゃんです。圧倒的にかわいいので(笑)。
松田さん 私も血小板ちゃんが大好きです。
松本さん 赤血球です。健気に体内を走り回っているのが応援したくなります。
—— ご自身も"デコぴたっ"しているのですか?
大場さん 帰宅後の日課のようにやっています。風邪かなと思わなくても(笑)。社内でも「やってみたよ」とよく声をかけられます。そういう反応も今回が初めてです。
松本さん 声に集中させる体験ができるという点が、ほかのボイスコンテンツとは違うという評価をいただきました。ただスマホで声を聞くのではなく、おでこをつけてスマホに集中して声を聞くことの違いが出せたと思います。
—— 最初、おでこの当て方がわからなくて角度を確かめているうちに、急に声が聞こえてきて驚きました。
大場さん 説明画面のピクトグラムにもうひとつ、アングルを追加すべきだったかな……。
松本さん 追加しなかったのもあえての狙いなんです。「どうやって使うの?」と動かしているうちに、好きなキャラクターの声が急に聞こえてくる、そんな驚きも体験してほしかったので。驚きの後、流れてくるキャラクター達の風邪の体内を奔走するストーリーは自分の体の中でがんばってくれているんだという感覚に繋がればと思いました。
—— まさに、狙い通りにハマっていたのですね(笑)。ほかにもアニメとのコラボ企画を多く手がけているということで、作り手としてのこだわりを教えてください。
大場さん コンテンツを扱う以上、「わかってるな」と思っていただきたいです。その結果、クライアントのイメージがよくなることを願っています。ブランディングの考え方ですが、リスペクトされるとか、わかっている感がないと企業を好きになってもらえません。コンテンツを扱うケースでは、自分と関係ない商品を、自分の好きなコンテンツを通して身近なことに感じてもらうことでコンテンツのクリエイティブが成立する。わかってる感がなければ、やっぱりダメですね。
—— そのためにしていることは?
大場さん リサーチ、そしてエゴサーチです。
松田さん コピーライターとしては、当たり前のことですが、作品を繰り返し観て、名前の呼び方、語尾、距離感などを確認します。もちろん、普段はいち視聴者としてアニメを楽しんでいるのですが、仕事となれば徹底的に作品を研究することが大事だと思っています。
—— わかってる方たちがコラボ企画を作ってくれたら、ファンとしてもすごくうれしいですし、安心です。
松本さん 商品とコンテンツがマッチしていれば、ファンは基本的にはよろこんでくれます。しかし、僕たちクリエイターが関わる以上は、ファンが喜ぶ“以上のもの”を提供しないと意味がないと思っています。コンテンツのパワー、出版社さんの力で人気が出る企画を作ることは意外とできます。今回のような"デコぴたっ"という企画性を出すことで、コンテンツの知名度も上がるし、商品もよく知ってもらえるきっかけになります。その引き上げがどれだけできるのか、常に突きつけられている課題だと思っています。
(取材・文/タナカシノブ)
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