内田彩、駒形友梨、上田麗奈、工藤晴香、逢田梨香子──今聴くべき旬な女性声優アーティストの新譜を徹底レビュー!【月刊声優アーティスト速報 2020年3月号】

今年の声優音楽シーンを振り返った時、この3月は特に重要なひと月として扱われることだろう。そう思えるほどに、ここ数週間でリリースされた声優アーティスト作品の充実ぶりには目を見張るものがあった。

内田彩「Reverb」

まずは、3月4日に4thシングル「Reverb」を発売した内田彩さん。同作の表題曲は、現在放送中のTVアニメ「インフィニット・デンドログラム」(TOKYO MXほか)エンディングテーマとしてオンエアされている。作編曲を務めた黒須克彦氏らしい、アグレッシブなベースラインが展開される1曲だ。

本稿で特筆したいのは、カップリング収録曲「声」。同曲のトータルプロデュースを手掛けたhisakuni氏は「Yellow Sweet」などを筆頭に、これまで内田さんの音楽活動で数々のターニングポイントを彩ってきた。そんな内田さんといえば、昨年11月発売のアルバム「Ephemera」からは一気に方向性を転換。自分自身の葛藤にもがく様子を描いたロックナンバーを次々に制作し、時にはその表現の難しさに自信が揺らいだ時期もあったという。

そんな「Ephemera」で見せた成長も含めて、アーティストとして歩んだ道のりをそのままに肯定した「声」。等身大の自分を受け止めてくれるメッセージに、内田さんは大いに救われたとのこと。彼女のアーティストデビュー以来の歩みを総括するにふさわしい1曲だ。

駒形友梨「a Day」

同じく3月4日、3rdミニアルバム「a Day」をリリースした駒形友梨さん。同作では「a Day」のタイトル通り、“昼間”に聴きたくなる楽曲を揃えたとのこと。これまで以上にアコースティック色を強めたサウンドが特徴的で、日常のなかにうまく溶け込むようなポップな音作りが光る1枚だ。

また、リード曲「On My Way」からは、彼女の音楽活動における“バランス感覚”のよさも感じられる。同曲のアレンジを担当した高橋諒氏は、駒形さんのデビューアルバム「〔CORE〕」以来、ブラスを基調とした楽曲を制作してきた人物。今回の「On My Way」もまた、アルバム内で特に力強いパワーを放っており、彼女の彩度の高いフレッシュな歌声を引き立てるよう、金管楽器が生み出す鮮やかさでトラックをにぎわせている。枚数を重ねるごとに新たなチャレンジをしながら、同時に過去の経験をしっかりと活かした作品にする。そんな駒形さんの音楽活動における想いが汲み取れる一作だ。

上田麗奈「Empathy」

次に、3月18日にフルアルバム「Empathy」を発表した上田麗奈さん。同作に込められたのは、声優として数多くの役柄と出会うなかで培った、さまざまなキャラクターたちへの“共感”の想い。もともとは歌うことを避けてきたという彼女だが、最近ではその活動にも徐々に前向きになりつつあるとのこと。そのポジティブな姿勢を反映したかのように、今作は今の季節にぴったりな春らしさを感じさせる、フィリーソウルな明るい色調で統一されている。

なかでも4曲目「ティーカップ」は、ブラックミュージック的な要素をベースにした、アーバンなR&Bテイストが心地よさを運ぶ1曲。サビ前にじっくりとブラスを聴かせる楽曲構成も非常におもしろく、よい意味でダウナーな雰囲気の抜け切らない上田さんの歌声とも抜群の相性を発揮している。また、アルバム全体に立ち返っても、多数のリスナーから名盤という評価をされていたのが強く頷けるほど、作品のコンセプトに寄り添った高い完成度を誇っている。間違いなく、2020年を代表する声優アーティスト作品のひとつに違いない。

工藤晴香「KDHR」

続いて、3月25日にデビューミニアルバム「KDHR」を発売する工藤晴香さん。工藤さんといえば、自身の特技であるギターを生かして、メディアミックス作品「BanG Dream!(バンドリ!)」より誕生したユニット「Roselia」での活躍ぶりが広く知られているが、今作のリード曲「MY VOICE」MVでも、その腕前をさっそく披露している。

また「KDHR」では一貫して、自身の愛するアップテンポなデジタルロックナンバーを提示。その制作にはおそらく、Roseliaで培った経験も結びついているのだろう。デビュー作にも関わらず、すでに明確な音楽活動のイメージ像が備わっているようだ。その上で、アルバム後半では、声優アーティストらしい部分も忘れない。5曲目「アナタがいるから」などでは、声優として培った役柄を演じ分ける技術を基に、ボーカル表現のやわらかさややさしさを求めた際、聴き手との距離感に特に配慮を重ねたそうだ。

逢田梨香子「Curtain raise」

最後に、3月31日に1stアルバム「Curtain raise」を発売する逢田梨香子さん。同作のリード曲「Lotus」は、初の作詞に臨んだミディアムナンバーで、前作シングル曲「for…」よりがらりと雰囲気を変えて、大人びた印象を受ける穏やかな楽曲となっている。そんな逢田さんは、昨年6月にEP「Principal」でアーティストデビュー。まだ活動開始から間もないこともあり、自身の歌声にフィットするサウンドや世界観を今まさに模索しているのだろう。

その過程で、「Curtain raise」終盤に収録される「Tiered」は、今後のアーティスト像を作り上げる指針にもなりうる楽曲となるのかもしれない。「Tiered」は、逢田さんが敬愛するやなぎなぎさんへの熱烈なオファーがかない、書き下ろされた楽曲だという。今作以降でも、逢田さんは歌唱のみならず作詞などに携わると思われるだけに、同曲の制作を通して徐々にイメージをより具体化しうるのではないだろうか。「Curtain raise」が彼女の未来において、どのような役割を果たす作品になるのか、今から楽しみにさせられる。

ここまで振り返ってきた通り、2020年冬アニメにおける主題歌作品のリリースがひと段落したタイミングにも関わらず、今年3月はすぐれた声優アーティスト作品にひときわ恵まれた期間となった。この流れに続いて、4月以降はどのような作品が続いていくのか。今後の動向も楽しみに見守っていきたい。

(文/一条皓太)

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