【BDを1名様にプレゼント!】日本がCGアニメで戦うために目指した「かわいさ」の表現──映画「HELLO WORLD」Blu-ray&DVD発売記念、伊藤智彦監督インタビュー!

2019年9月に公開されたオリジナル劇場アニメ「HELLO WORLD」は、前半は少年マンガのようなバトル漫画の修行モノ&ラブコメで見せつつ、後半は迫力のあるアクションとスケールの大きなSF的描写で圧倒していくという面白い構成の作品である。

「SF」というと敷居が高く感じてしまう方もいるかもしれないが、本作は上記の通り大きくジャンルが変わることにより、気が付くとラストまであっという間に駆け抜けてしまう。今回は、そんな敷居の高さをやわらげていた前半の「ポップさ」や「キャラのかわいさ」にフィーチャーし、伊藤智彦監督に話をうかがった。

パートごとに異なるコンテマンを配し、ジャンルチェンジを試みる

ーー伊藤監督というと、やはり「ソードアート・オンライン」シリーズの印象が強く、そこでTVアニメから劇場版までを経験していると思いますが、あらためてTVアニメと劇場版とで、どんな制作上の違いがあるのでしょうか?

伊藤 大きなところだと、本作は劇場作品であるとともにオリジナル作品であるということなんです。つまり完成形のビジョンを持っている人が非常に少ないということなので、今回はそれをどうスタッフに広めていくのかが重要でした。そこでまず、ビデオコンテという絵コンテをムービー化したものを作り、プレスコだったのでそれに声を付けて、こういう話なんですよというのを伝えるようにしました。それによって俺が思い描いている作品の理想形に近づけられたらいいなと思って。

ーー完成するまでイメージを共有できないのは、難しいですね。

伊藤 TVアニメだと1本作ってしまえばそれに準じて作ってもらうことができるんですけどね。正解例を途中で提示して、それを追いかけていく作業ができるけど、劇場作品だとそれができないので、そこの差は大きいと思います。

ーーある意味監督も最終形が見えていなかったりするのですか?

伊藤 いや、俺はなんとなくこういうふうに決着するだろうと思っているんですけど、できればその想像を超えたいんですよ。結局ここまでしか到達できなかったな、とかはあるし。今回がどのくらいのパーセンテージだったかまでは言及しないですけど(笑)。

ーー「HELLO WORLD」は97分という尺でしたが、これは作り手側からみて、短い感覚でしたか?

伊藤 俺は短いなと思いました。東宝さん的にはもう少し短くしたいという思惑はあったと思いますけど、100分ギリギリを狙ってもよかったのかなと思っているんです。

ーーちなみに、もし2~3分足せるとしたらどこを足しますか?

伊藤 最後の大人ナオミが心変わりするところですかね。あそこはもう少していねいに描いてもよかったのかなと思いますけど、それをしてしまうと映画全体で大人ナオミ臭が強くなってしまうから、したらしたで得ではなかった気もします……。難しいところですね。

ーー作品の構成的には大きく3つの展開があると思っていまして、最初は少年漫画のような修行モノ、次にラブコメが来て、後半のクライマックスはSF作品になっていく。このような構成にした理由と、そのよさというのはどこにありますか?

伊藤 近年のハリウッド作品のムーブメントとして、物語の中盤で大きくジャンルが変わる、いわゆるジャンルチェンジをする、というのがあったんです。その流行りに乗っかろうというのが今回はあって、そこからもう少し細分化できるのではないかと思い、A・B・C・Dパートに分け、コンテマンを全部違う方にお願いしました。それによって、それぞれの得意ゾーンをやってもらうことができたので、それぞれの持ち味が出ていたのかなと思っています。もちろん監督として手直しはしましたけど。

ーー少し話は逸れますが、今回発売されるBlu-rayスペシャル・エディションにはスピンオフ作品「ANOTHER WORLD」が収録されています。これはどのような経緯で作ったのですか?

伊藤 あれは宣伝のために作れと言われたので作ったんです(笑)。なので最初からあった企画ではなかったので、まだ映画が完成もしていない段階で、どうするよ?って言いながら作り始めました。

ーー「HELLO WORLD」は、高校生の堅書直実(CV.北村匠海)が、彼女になった一行瑠璃(CV.浜辺美波)を事故で亡くしてしまい、その運命を未来から来た大人ナオミ(CV.松坂桃李)が変えようとするというのが大まかなストーリーですが、彼女を失ってからのナオミ(CV.松岡禎丞)の様子が描かれていて、すごく物語が補完された感じがしたんです。で、それを知ってから本編を見ると、大人ナオミに感情移入して、より感動したんですよね。

伊藤 そうおっしゃってくれるのあれば作ってよかったですし、公開中ももっと気軽に見られるようにすればよかったのかもという思いもありますが、今回パッケージに入れられることになったので、そちらも合わせて見てほしいです。

あえて挑んだ「一番3Dにしちゃいけない」キャラクターデザイン

ーー作品は最近の日本のアニメでは数少ない本格的なSF作品として、非常に面白かったのですが、そのいっぽうでSFがちょっと難しいという人にも取っかかりになるものがしっかりとあって、それが堀口悠紀子さん(「けいおん!」「たまこまーけっと」ほか)のキャラクターデザインだと思ったんです。その絵を3DCGで動かすということにまず驚いて、同時にものすごくハードルが高いことに挑戦しているなと思ったんです。

伊藤 まぁ基本的に一番3Dにしちゃいけないタイプのデザインですからね(笑)。だからこそやりがいがあったというか。CG業界の今後を考えてやったということはまったくないんですけど、CGではるか先を行くアメリカの真似はできないわけで。では、日本のCGアニメ界隈が独自の立ち位置を持ってやるには、どうすればいいんだろうなっていうのは一応考えました。

その中で、セルルックという技術での戦い方はあるんじゃないのかなと思ったんですね。アニメーション制作のグラフィニカさんは、作画に近くしていくというアプローチをしている会社で、それはポリゴン・ピクチュアズ(「シドニアの騎士」「GODZILLA」シリーズなどを手がけたアニメ制作会社)ともオレンジ(「宝石の国」「BEASTARS」などを手がけたアニメ制作会社)とも違うんです。そこは各社それぞれの特色があって面白いんですけど、俺は作画アニメ畑の人間なので、それに一番近しいところで、3DCGの得意とするところも入れつつ、苦手としているところをいろいろやってみようというのが、今回の目的のひとつではありました。

ーーまさしくCGで「かわいい」を表現するのは本当に難しそうだと思ったのですが、一行瑠璃が途中でものすごくかわいく思えてきたんです。ベンチでのシーンや、直実に告白されるところですね。そこをクリアするためにどんな仕掛けをしたのかなと思いまして。

伊藤 それに関しては、アニメーターのがんばりだと俺は思います。今回モーションキャプチャーは使っていないので、全部がアニメーターの手付けになるわけです。なのでそれがかわいく見えたのであれば、表情付けを担当したメインの五十嵐彩香さん(フェイシャルスーパーバイザー)であるとか、アニメーションスーパーバイザーの八木田さん、荻田さんたちの力がとても大きかったのではないかと思います。

でもやってみて、これ作画では超簡単にできるのに、すごく時間がかかるなぁとかはありましたけどね。3Dなので当然モデルがあって、それがあれば全部のカットをさくっと作れるとみなさん思いがちなんですけど、さにあらず、まったくそうはいかないという(笑)。

ニメーターがそれを独自に変形させたりして、カットの見栄えに合わせた細工をしているので、堀口さんのキャラが再現されているように見えるんです。それって多分ほかの会社では許されないことなのかもしれないですけど、そのくらいのゆるさがないとああいうことはできないんだろうなぁと思いました。

ーーそうだったんですね! それはかなり大変そうです……。

伊藤 だから「3Dなのに作画崩壊ってするんだ」って瞬間もあるんですよ(笑)。それはちょっとモデルをイジりすぎだ!と。

ーーそこにマンガ的な表現もうまいこと入れながら、「かわいい」を目指している感じがしました。一行さんが真っ赤になるところとか、勘解由小路三鈴(CV.福原 遥)のかわいいオーラもそうですが。

伊藤 マンガっぽい表現は難しいところでしたけどね。日本のアニメを見ている人はマンガっぽさを入れてほしいでしょうし、俺もやや入れたいほうなんですけど、そこに3Dが乗っかりきれない感じもあったので、それを達成したかったんです。それが深夜アニメ臭いと言われちゃうこともあるんですけど(苦笑)、それはそれでしょうがないなと。

ーーそして、最後の現実世界ではいきなり手描き作画になって驚きでした。過去をそのまま保存する装置のアルタラの中が3DCGで描かれていたという物語ともリンクした仕掛けがすごいなと。しかも作画では「ソードアート・オンライン」でよく見かける名前も多くて、グッと来ました。

伊藤 そこをもっと明確に見せればよかったのかなという考えと、いやいやそうでもないだろうという考えがあったんですけど、このくらいのバランスがいいのではないのかなというのが「HELLO WORLD」における手描きの使い方だったと思います。ほうら、変わりましたよ!って見せるのは簡単なんですけど、それをしてもどっちがいいかみたいな感じになってしまう恐れもあったので、それはやるまいと。

本編も限りなく作画のトーンに近づけたので、本来の作画に戻ったらどうなるんだろうなとトライし、どんな感触になるのかと思いましたけど、意外と業界関係者に聞いても、(手描きは)最後だけだったんですねっていう素直な感想から、全然気にならなかったという話もあって、それはそれで俺の狙いからはやや逸れた感じなのかもしれないですけど……(笑)。



キャストの個性が光るビジュアルコメンタリー

ーーパッケージに収録されているビジュアルコメンタリーについても、少し教えてください。浜辺美波さんはふわっとしている感じがとても不思議で、一行さんのように魅力的なオーラを放っていますし、逆に北村匠海さんはSF好きが全面に出ていて、すごく面白かったです。

伊藤 もう結構前に収録したので内容は全然覚えてないんですけど、確かに北村くんはアフレコの合間の休憩中でもSF作品の話をしていたんですよ。「攻殻機動隊」とか「ガンダム」を浜辺さんに見せたがっていたりとか。いっぽう、浜辺さんはそんなに心をオープンにする人ではないので、その対比がすごく面白かったです。瑠璃っぽさという面で近しいものを感じましたし、本人が明朗快活な人間じゃなくてよかったなと思いました(笑)。すごくおしゃべりな方だったらああはなっていなかったと思います。

ーーちなみに北村さんのお芝居はいかがでしたか? 前半はむしろヒロインのようなかわいさがありましたが。

伊藤 あの年齢感をやるのって、特に俳優さんだとなかなかいなくて、探した結果、北村くんになったんです。そのあと劇場アニメの「ぼくらの7日間戦争」にも出ていたので、もっと声がかかってもいい気がします。何でしょうね、ヒーローになりきれない感じというか、よく言う等身大な感じ? それよりちょっと弱々しいとなると、あまりできる人がいないんですよね。実写で見ると、彼のルックスもあるので強さみたいなものが加味されますけど、声の成分だけ聞くと弱々しさがある感じだなと思いました。

ーーでは最後に、パッケージが発売されるということで、何度も見ることができるようになりますが、ユーザーの皆さんにはどのように楽しんでいただきたいでしょうか?

伊藤 劇場に何度も観に来てくれていた人たちには、まだ発見できてないところがあるはずだから見たまえ!っていうのと、SFというジャンルになると、なかなか足が遠のきがちだと思うけど、たまにはそういう作品を見てもいいんじゃないのかなという心持ちで俺らは作っていました。そして「3DCGでしょ?」っていう方も、そんな肩肘張らずに見られるようにしているので、まずは気軽な気持ちで100分弱を見ていただければなと思います。

ーー見始めたらあっという間ですからね。2019年はアニメ映画が多かった1年でしたが、その中でも少数派だったSF作品を、もっと楽しむ空気があってもいいのでは?と個人的には思っています。

伊藤 業界全体を見ても、みんなが同じ話をやりたいわけではないと思うし、与えられた中で、それぞれが違うことをやっているんですよね。2019年に発表されたアニメ映画も、それぞれが何かを追いかけて、それぞれが違う爪痕を残しているはずなので、それを比較しながら見ていただくのもいいんじゃないかなと思います。表に出ているコピーとは違うものを感じると思うので、それを見たあとのお土産にしてほしいですね。

(取材・文/塚越淳一)


【商品情報】
■HELLO WORLD
・価格:Blu-ray スペシャル・エディション 9,800円(税別)、Blu-ray 通常版 4,800円(税別)、DVD 通常版 3,800円(税別)
・発売日:4月8日
・発売、販売元:東宝

映画「HELLO WORLD」伊藤智彦監督インタビュー記念、通常盤Blu-rayを抽選で1名様にプレゼント!

<賞品>
・「HELLO WORLD」通常盤Blu-ray

<応募要項>
・応募期間 2020年4月6日(月)~2020年4月13日(月)23:59
・当選人数 1名様
・賞品発送 2020年6月末までに発送予定
・応募方法 下記専用応募フォームにて受付

<注意事項>
・応募には会員登録(無料)が必要です。
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