「急速に変化する今の時代になんとか間に合ったかな」Netflixで世界配信スタート!「攻殻機動隊 SAC_2045」神山健治・荒牧伸志W監督インタビュー

2020年4月23日(木)より、Netflixで全世界独占配信されるオリジナルアニメシリーズ「攻殻機動隊 SAC_2045」(以下、「SAC_2045」)。

攻殻機動隊シリーズ初となるフル3DCG作品であり、「攻殻機動隊 S.A.C」シリーズを手がけた神山健治監督と、かつて同じ士郎正宗作品である「APPLESEED」を手がけた荒牧伸志監督がダブル監督を務めるなど、配信前から大きな話題を呼んでいる。今この時期に、攻殻シリーズの新作を手がけた意味は何か? モーションキャプチャを使ったフル3DCG作画の手応えは? 2人の監督にその真意をうかがった。

仮に戦争というものをAIに管理させたら……、それが本作の「題材」になった

──本日はよろしくお願いします。まず、本作を作ることになったきっかけについて教えてください。

荒牧伸志監督(以下、荒牧) 今から5年前に、北海道のゆうばり国際ファンタスティック映画祭にゲストで呼ばれたときに、Production I.Gの石川社長と久々にお会いして、そのときに「以前からフル3DCGでモーションキャプチャを使った攻殻機動隊をやりたいと思っていました」と言ったのがきっかけです。そうしたら意外に好印象で、「監督どうするの? 荒牧君がやる?」と言われたので、「神山監督と一緒にやりたいです」という話をしました。その後、神山監督のほうに話がいき、じゃあ一度会ってみましょうということになったのが始まりですね。

──神山さんは、そのお話を聞いてどうでしたか?

神山健治監督(以下、神山) 僕も「攻殻機動隊」からはしばらく離れていたし、攻殻機動隊はいろんな監督が携わるシリーズとしてやっていくものだと思っていました。ただ、攻殻機動隊という題材は、作っても作っても使い減らないというポテンシャルのよさがあるし、自分が描きたいと思っていることと相性がいいんだろうなというのは感じていました。そこへ荒牧監督から話があり、モーションキャプチャというものにも同時に可能性を感じて、お受けしました。

──本作は、モーションキャプチャによるフル3DCGでの制作ということで、そこに可能性を感じたということですが、やはり作品にマッチすると?

荒牧 神山監督が以前に作られていた「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」が、すごく等身がリアルで、街とか空間の構成もリアルに作られていて、その中で緻密なドラマが組み立てられるというスタイルだったので、これは神山監督も興味を持ってくれるだろうなと思いました。自分もモーションキャプチャとかいろいろやってきましたが、最初のうちは、ただアクションシーンだけをアニメーターが描く代わりに役者が動くというようなものだったのが、徐々にドラマを描くのにも非常に有効だということがわかってきました。その中で、芝居ができるレベルの高い役者さんを集めて、ちゃんとしたドラマを一緒に作っていけるという手応えを得ていました。そういう技術面も含めての提案だったわけです。

神山 もちろんモーションキャプチャに可能性は感じていましたが、その半面、これまで「攻殻機動隊」を作ってきた立場からすると、「攻殻機動隊」は3DCG向きではないと思う部分もありました。なぜかといえば、作画であれば、こういうシーンが1カット欲しいと思えば、それを描いてしまえば済むのに、3DCGの場合は、モデルをいちから起こさなくてはならず、コスト面でなかなか難しいわけです。作画の場合は、アニメーターの力量によってそういう問題をすぐにリカバリーできるわけで、「S.A.C」シリーズというのは、その作画の力を最大限に生かして作っていたんです。それが3DCGだとできなくなるだろうなあというのが、最初に思ったことですね。

これに対して、モーションキャプチャは、演技の面で、作画にはできないことができる。アクションであったり、設定を描く情景描写といった部分は作画のほうが向いているんだけども、リアルな設定を語っていくうえでのキャラクターの演技では、作画の場合、あえて動きを止めてしまって会話をさせるとか、そういう方法でやらないとなかなか成立させられない部分があるんです。作画と3DCG、それぞれが持っている得意な部分、不得意な部分が真逆なんで、向いている部分、向いていない部分があるというのは、僕も荒牧監督もわかっていました。

であれば、今回はモーションキャプチャを使うというのがベースなので、芝居の部分を強化することで、作画ではちょっと物足りなかったかもしれない部分がしっかりつくれるだろうと。その代わり、設定にある多くのガジェットとかシークエンスを出すことは難しくなるだろう。そういうことは初めから漠然と感じていましたね。

──「攻殻機動隊」という作品は、AIであったりネットであったり、非常に時代を先取りしてきた作品だと思います。今回の「SAC_2045」において、ストーリーや題材的にもっとも重要だと思う点はどんなところでしょうか。

神山 僕が作品を作る際には必ず、「今ってどういう時代なんだろう? いいところは? 悪いところは? こうなったらいいな。何が足りないんだろう?」ということを考えます。わかりやすく言うと、ドラえもんのひみつ道具みたいなものを現代社会に置いてみるといった立脚点から発想していきます。そういう僕の作品の作り方のスタイルは、本作でも踏襲させていただき、そこに攻殻機動隊の世界観を組み込むことで、何かが見えてくるだろうと。それが僕が「テーマ」ではなく、「題材」と言っているところのものです。

そういう視点で、今の時代を考えてみたときに、「攻殻機動隊」の世界で描かれていたAIと、今実際に実現しているAIと、どういうところが同じなのか、違っているのか。そういうことを照らし合わせていったときに一番最初に出てきたのは、草薙素子達って、ちょっと不謹慎な言い方かもしれないけど、戦争屋なんだよね。「公安9課」って警察官としての仕事が多かったけど、彼らの本業はおそらく戦争なんですね。そういうイメージがあったので、公安9課の刑事としての素子達じゃない、戦争屋としての側面を描いてみたい、というところから発想がスタートしました。

初めてこのシリーズを見る人たちに向けて、「リブート」ではない形で、彼らがどういう人たちなのかを説明したかったということもあります。と同時に、今の社会ってどういう時代なんだろうというのを考えてみたときに、今の時代って、僕らが想像していたのとは全く違うけど、ある種の世界大戦が起きてしまった時代なんじゃないの? ミサイルや銃弾は飛んでこないし、戦車や戦艦が見えるようなことはないけど、戦争はしてるよね? それももしかしたら、世界戦争レベルなのではないかと思ったわけです。不謹慎だけど、戦争という行為が産業として社会に組み込まれてしまっている、そういう時代なんじゃないんだろうか。それが「サスティナブル・ウォー」という言葉になりました。

それともうひとつ、この企画がスタートした5年前には、「シンギュラリティ」(※注)が2045年に来るとか、AIが生活の中にどんどん入ってくるとかいうことが話題になっていました。だとしたら、もし仮に戦争というものをAIに管理させたら、なるべく人が死なず、スクラップ&ビルドを繰り返していくうえでもっとも効率がいい産業として、我々の知らないところで組み込まれてしまうのではないか。それが今なんじゃないのか、というのが、今回見つけた「題材」になりました。そこにキャラクターを投入して、攻殻の世界観を投入することで「テーマ」が見えてくるだろうということで、組み上げていったというのが、今回のシリーズです。

※注……シンギュラリティ:技術的特異点。AIが人間の脳を超える到達点。

──実際のドンパチ的な戦争ではないが、AIがからんでいくような目に見えないところでの戦争というイメージでしょうか。

神山 僕らの世代では「冷戦(コールドウォー)」というのがありましたが、言葉ではわかっていたけど、実際には戦争だとは思っていなかったわけですよね。70年代に入ってからは可視化できるような戦争はほとんど起こらなくなったわけで。それがさらに進んだような感じというのは思ってましたね。

荒牧 もっと複雑になって多様化している状態の戦争というのを描けたらなあとは思ってました。

時代のほうが早くて、作品を超えてしまうかも、という心配もありました

──本作は、そういう意味で、まさに先見性があるというか、むしろ内容が時代に合ってしまったと感じます。

神山 実は5年前からシナリオを開発している中で、これはもしかしたら、時代に追い抜かれてしまうかもな、というのは感じてました。トランプが大統領になるのかどうかというのも5年前くらいのことでしたし、中国がこれだけ国際社会に影響力を持つということだって、その頃は一般の人はあまり感じていなかったと思います。5年前ってまだ中国に対して、「食べ物にこんなものが入ってました」とか「中国製の製品が爆発しました」みたいな、みんなちょっと面白おかしく語っていた時代だと思います。

荒牧 高速新幹線が事故を起こしました、いうようなことが話題になっていた時代でしたね。でも海外に取材に行ったりすると、上海とかもう東京レベルじゃなく進んでるわけで。それが5年前です。

神山 上海なんか1年ごとに行くたびにすごくなってるわけで、テレビで言ってるのとは全然違うと思ったり。かと思えば、アメリカではもう日本のクルマなんか走ってないとか、結構ショックでしたね。

荒牧 「Uber」が当たり前だったりとか、電動キックスケーターみたいなものがスマホですぐに借りられたりとか。それももう終わりそうになってますけど。

神山 「攻殻機動隊」の世界の中の日本って、政治機構が失われつつある社会で、進んだ技術と経済が牽引しているという世界だったわけで、80年代には、そうなるかもねって思っていたのが、いつの間にか、現実の今の日本って、世界では遅れていて、衰退新興国みたいになっているんじゃないかというのが、作っているうちにだんだん見えてきちゃって。もちろん、そういうのは僕たちも認めたくはないんだけど、そういう要素を入れ込んでいくことで、結果として、みんなが望む社会というのはどうしたらできるのか、どうしたらできないのかということを問いかける内容になりました。「S.A.C」を作っていたときよりも、社会の動きが速くなっているので、シナリオを開発して、世の中に出す頃には、もしかしたら追いつかれてしまうかもしれないな、なんて思いながら作っていましたけどね。

あとネット社会になってからは、見たい記事しか見えなくなってきたというのがすごく顕著になって、テレビだと、いやでもある程度みんなで同じ情報を共有していたのが、ネット時代では同じ情報を共有していないなあという感じがします。

荒牧 それぞれに特化したカスタマイズされたニュースしか見てない。それによって、みんな見えるものが違っていて、それでみんな世の中いいほうに進んでいるんだと思っているけど、実は全然意識が違っていたりするっていうのが、同時に起こっているなと思います。そういうことを端的に映像で表現できないかなって。主観的に物事を見るときに、実はみんな見えているものが違うんだよ、っていうようなことが出せないかなと。

「攻殻機動隊」の原作のフェイズでは、まだネットでさえ、みんなにとってリアルなものじゃなかった。「S.A.C」の頃には、ネットはあったけど、あの頃はみんなまだiモードとかそういう世界だった。それが今やスマホの時代になって、むしろリアルに描かないと、みんなに共感持ってもらえないという時代になっていると思うんですよ。それをどう描写として強化していくか、ということは相当気をつけて作ってきました。ただ、時代のほうが超えてしまう印象にならないかなという心配も同時にありました。そういう意味では、みんなに早く見てほしい(笑)。


──今回の作品では、前半・後半の2つフェイズがあると思います。前半は紛争地域となったアメリカが舞台ですが、後半の日本の描き方に関して、世界同時デフォルトとか、東京復興計画とか、すごく予言的だと感じました。

神山 そう見てもらえると、「なんとか間に合ったかな」という気がします(笑)。

荒牧 前半のアメリカ編は、「サスティナブル・ウォー」というものをわかりやすく描くことで、初見の人でもわかりやすく「攻殻機動隊」の世界に入っていけるような導入的な意味合いもあります。で後半では、ひるがえって日本では、というところで、さらに話が深くなっていくということですね。

荒牧伸志監督(奥)と神山健治監督

2人でやったことで、仕事量的には全然楽じゃないけど、気持ち的にはだいぶ楽でした

──お2人の役割分担はどんな感じになっているのでしょうか?

荒牧 前回一緒にやった「ULTRAMAN」の時からそうなんですが、神山監督には、脚本会議などでは最初のうち引っ張ってもらいまとめてもらっていますが、絵コンテ段階になると、1話は神山監督に作ってもらうものの、次からは絵コンテとかステージングのラフは僕のほうでどんどん作っていきました。とはいえ、違いはそれくらいのもので、以降はすべて一緒に見るようにしています。モーションキャプチャの撮影なども、神山さんにスタート、カットはかけてもらうようにしてますが、2人で回してますね。

モーションキャプチャの撮影って、結構大勢の人間が動いたりするので、目が行き届かない部分も出てくるんです。なので、みんなでチェックしながらやるんですが、一緒にやると、その場で見落としとかがチェックできて、意識合わせもできますし、アイデアも出し合えるので2人でやったほうがいいです。2人の意見を聞くことになるスタッフのほうは大変かもしれませんが(笑)。とにかくできるだけ一緒に見ないと、2人で違うこと言われるとスタッフも混乱しますので。問題があればその場ですりあわせています。

神山 2人でやっていると、見落とすことが減りますし、見落としではないけれども、意見を言ったりもします。3DCGをつくり始めてから思うのは、作画の時よりも間違いなく仕事量は増えていますが、2人で一緒に見ていくことで、自分では無理と思うことでも、荒牧さんの経験でそれができてしまうとか、そういうことでキャッチアップしていけるので、やっていて心強いですし、強度が増すんです。仕事量的には全然楽じゃないんですけどね(笑)、気持ち的にはだいぶ楽になりました。

──「ULTRAMAN」の時にできなかったことができるようになったりということはありますか?

荒牧 CGの技術的な部分ですが、モブのバリエーションとか、手に何も持っていないところを何か持たせようとか、そういう点では進歩しています。

神山 技術というより予算に直結する部分なんですけどね。あとは、モーションキャプチャで芝居を作っていくということに関しては、「ULTRAMAN」の制作を経て我々もスキルが上がったし、役者さんのほうのレベルも上がったと思います。以前はモーションキャプチャっていうと、跳んだり跳ねたりアクロバティックなことをするという印象を役者さんも持っていたんですが、そうではなくて、実写と同じでちゃんとワンシーンを通して芝居もするということをオーディションのときに説明すると、結構驚かれたりとかね。逆に、台詞入れてちゃんと芝居するということで面白そうと思ってもらえるようになって、役者さんが前向きに取り組んでもらえるようになったので、そのあたりの精度がすごく上がりましたね。

──お2人それぞれの視点から見て、お互いの監督の印象は?

荒牧 わかりやすく言うと、あきらめない人だなという(笑)。逆の場合もあるんですけど、強いコンセプトを持っているので、このシーンはこうじゃなきゃダメなんだというのは多いです。僕のほうは、それをやるんだったら、こういう方法はどう?というような提案はしたりします。その議論は建設的な感じで面白いですよ。たまにはぶつかることもありますが、そこはちゃんと納得しないと先に進めませんし。でも、基本的にはゆずらない人なので(笑)。ただちゃんと筋が通っているので、なるほどなと納得することが多いです。その割に、あ、そこはゆずるんだ、みたいなところもありますけど(笑)。でも、8~9割、意見は合いますし、「ULTRAMAN」を一緒にやってきたことはよかったなと。

神山 荒牧監督は、粘り強いし、クレバーだし、柔軟性がある。そういうところがあるので一緒にできているんだと思います。僕が苦手な部分で、メカ的な部分とか、SF的な設定の部分とか、そういう部分も助かってますね。

──本作はフル3DCGということで、メカなどの部分はよさが出やすい部分と思いますが、逆にキャラデザインなどの部分で難しい面もあったのではないかと思います。そのあたりで気をつけた点、苦心した点などはありますか?

神山 デフォルメっぽく見えるかもしれませんが、キャラの等身などは意外とリアルなんですよ。脚の長さとか、関節までの長さとかは、かなりリアルに作り込んでいます。で、リアルにしちゃうと絶対カッコ悪くなるところを、そうならないように、まずモデリングの部分で苦心したというところはあります。

荒牧 等身のバランスは相当何度も作り直しましたね。

神山 作画アニメの場合だと、俯瞰で撮っても脚を長く見せられますが、3DCGの場合、俯瞰で撮っちゃうと、脚が短く見えるわけです。そういう部分も、作画と同じように、どこから撮ってもカッコよく見えるようにしなくちゃいけないし、アクションでも映えなきゃいけない、日常生活でも違和感がないようにしなくちゃいけない。そういうバランス取りという部分は、「ULTRAMAN」の経験からさらに進化した部分ですね。

荒牧 手足が長いとアクションも映えそうですけど、実は、なんかふらふらして人じゃないみたいになっちゃうんで、あんまりカッコよくないんです。膝立ちで銃をバンバンと撃つシーンでもそういうのが出ちゃうんで、そのあたりも気をつけました。月に2話ずつくらいモーションキャプチャで撮っていくんですけど、その繰り返しの中でかなり密度が濃くできるので、そこからのフィードバックというのはかなりありましたね。

神山 荒牧さんと僕とで、最初から共通して一番重要だと思っていたのは、「車両に乗ったときに3DCGはバレる」ということです。人間の記憶ってあやふやなのに、たいしたところがあって、適当なモデリングすると、クルマのタイヤとかがこんな大きさじゃないってことがすぐにバレるんですよ。説明はできないけどバレるんです。作画の場合はそれを絵で吸収できちゃうけど、3DCGはそうはいかない。だからモデラーは大変だったと思いますよ。

荒牧 乗り物の横にキャラクターが立った瞬間にそれがわかるので、ハンドルを握ったら、もう構図が変だ、モデルが変に違いない、ということで、モデラーに戻したりしちゃいますね。センチ単位で直したりしてます。

神山 モデラーからすると、言ってることは同じだけど、2人から同時に言われるからね(笑)。架空のものほど難しいんですよ。ちょっとSFっぽいイスとかね。ダイブギアとか、設定ではこう書いてあるけど、絶対首に当たりません、とかあるので(笑)。作画だと短くしたりできますけど、3DCGの場合そうはいかないので。

──キャラデザインが、ロシア人のイリヤ・クブシノブさんですが、どうやって彼を抜擢したのでしょうか?

神山 これは偶然が味方したところもあるんですけど、Production I.GグループのSignal-MDという会社で、イリヤ君がキャラデザをした映画が動いてまして、彼も忙しい身なんですが、ちょっと手が空くかもしれない、という話を聞いて、だったらと声をかけてみたところ、ぜひやりたいですということで決まりました。彼のほうもロシア時代から「攻殻機動隊」は知っていて、彼のスケッチの中にも「攻殻機動隊」を題材にしたスケッチがあったりして、ある種相思相愛というか、とても運がよかったと思います。

同時に、彼が描く女性って、元々の素子よりは若くなるんだけど、今回初めて「攻殻機動隊」を見るお客さんにとって入っていきやすいキャラデザインになったのはよかったと思います。そうでないと、初めて「攻殻機動隊」を見るお客さんは、なんでこんなに鬱々としたキャラなんだと思うでしょうから(笑)。

本作では一度敷居を下げることで、本当に描きたいテーマにもう一度大きくジャンプしたかった

──従来の「攻殻機動隊」シリーズでは、電脳世界に草薙素子がダイブしての電脳戦というのがお決まりのパターンとしてありましたが、本作ではほとんどそういうシーンがありませんね。

神山 それは2人ともあまり意識していませんでしたが、そうですね。やはり、時代が大きく変わって、ネットの世界が誰にも当たり前のもののように感じられるようになった、そのことが大きいのかもしれません。あえて、ネット世界というものをビジュアルで描く必要がなくなったというか。それは作り手の我々の意識が変わったということも大きいと思います。

──あと、本作では新たなキーワードとして「ポストヒューマン」という存在が登場します。このポストヒューマンという存在が、本作の到達すべき謎というか仮想敵のような存在になっていきますが、一種のファンタジー的な存在のような感じも受けました。

神山 士郎正宗先生の原作でも「人形使い」の話がいきなり出てきて、あれも正直よくわからないような存在だと思うんです。で、偶然なのか計算してなのかはわかりませんが、そこをあまりにも攻めてしまったがゆえに、物語と現実の遊離を避けるために、物語をもっとリアルに寄せなければと複雑化してしまった面があります。そうすると物語としては不自由になってくる部分があるわけです。

荒牧 そうだね。あそこでフェイズが変わったよね。

神山 そういうこともあって、今回はあえて敷居を下げようというのが、ポストヒューマンの発明なんです。ファンタジーに見えていいと思うし、「攻殻機動隊」としてのSF的なリアリティを損なっていると感じたとしても、一度敷居を下げることで、本当に描きたいテーマにもう一度大きくジャンプできるんじゃないかと思ったんです。本作の冒頭で、素子たちが元の戦争屋に戻っているというのも、いったん敷居を下げたいという意味での演出のひとつなんです。

──最後に、本作の見どころについてひと言ずつお願いします。

神山 今回、設定の部分では「サスティナブル・ウォー」というワードで、可視化されない戦争が継続している世界を描きました。その中で、これまではあまり描かれなかった、本来は戦争屋であるところの素子達の姿をよりビジュアル的に派手に描くところから入っています。そこからより深い設定に向けて物語を掘って行っていますので、パッと見の楽しさにプラスして、掘り下げるところは掘り下げていますというところを見てもらえるいいかなと思います。

荒牧 まさにその通りですが、全話をできるだけ一気に見られるようにというところも意識しつつ作りましたので、深い部分は感じながらも、一気にエンターテインメントとして見てもらえるといいなあと思います。あまりハードルは上げずに、でもさらに深いところも感じてもらって、もう1回見る、というような見方をしてもらえると。こういうこと言うと怒られるかもしれませんけど(笑)。まずは気楽に入ってもらえるといいと思います。

──ありがとうございました。

【作品情報】

■Netflixオリジナルアニメシリーズ「攻殻機動隊 SAC_2045」

<配信情報>

2020年4月23日(木)より全世界独占配信(※中国本土を除く)

<メインキャスト>

草薙素子:田中敦子

荒巻大輔:阪 脩

バトー:大塚明夫

トグサ:山寺宏一

イシカワ:仲野 裕

サイトー:大川 透

パズ:小野塚貴志

ボーマ:山口太郎

タチコマ:玉川砂記子

江崎プリン:潘めぐみ

スタンダード:津田健次郎

ジョン・スミス:曽世海司

久利須・大友・帝都:喜山茂雄

<スタッフ>

原作:士郎正宗「攻殻機動隊」(講談社 KCデラックス刊)

監督:神山健治 × 荒牧伸志

シリーズ構成:神山健治

キャラクターデザイン:イリヤ・クブシノブ

音楽:戸田信子 × 陣内一真

オープニングテーマ:「Fly with me」

エンディングテーマ:「sustain++;」

音楽制作:フライングドッグ

制作:Production I.G × SOLA DIGITAL ARTS

製作:攻殻機動隊2045製作委員会

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

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