KOTOKOが美少女ゲームソングとともに歩んできた15年の集大成──全134曲収録のまさに「聖書」なコンプリートボックス「The Bible」発売記念インタビュー!

「おねがい☆ティーチャー」「灼眼のシャナ」「ハヤテのごとく!」などのアニメ作品で主題歌を担当してきたKOTOKOさん。

しかし彼女のキャリアの原点は、美少女ゲームソングである。そんなKOTOKOさんが、デビュー時から歌い重ねたゲームソングを集結させ、2020年4月21日にコンプリートボックス「The Bible」として世に送り出した。

数々の美少女ゲームでテーマソングを手がけた音楽クリエイター集団「I've」の歌い手として、電波ソングの旗手として見せた活躍の影響は大きく、今も彼女のファンとして知られる鬼龍院翔さん(ゴールデンボンバー)が新曲「かまってちょうだい///」でKOTOKOさんとコラボしたほど。

今年15周年を迎え、いまだ意気軒昂な「KOTOKO」というアーティストがどのように誕生し、成長してきたかを振り返る。

詞も書ける歌い手としていろいろと試してもらった

――今でもさくらんぼはお好きですか?

KOTOKO ハイ、今でも一番好きな食べ物ですよ。いまだにぶれないです(笑)。

――変わらず嬉しい限りです(笑)。KOTOKOさんのデビュー当時、美少女ゲームの主題歌を歌うアーティストにスポットが当たることはあまりありませんでした。「Close to me…」が2000年発売のPCゲーム「effect ~悪魔の仔~」のテーマソングに決まった経緯から教えていただけますか?

KOTOKO あのときは多分、歌い手の指定はなかったはずです。I'veさんの初期は、何人かで仮歌を録ってからメーカーさんにプレゼンをかける形をとっていて、私も仮歌を歌ったけれど別の方が選ばれる、という楽曲もありました。でも、「Close to me…」では仮歌を録らなかったので歌い手はお任せというパターンだったと思います。それで高瀬(一矢)さんが私に歌わせてみたいと思ってくださったんでしょうね(※注)。

※高瀬一矢…I'veのメインクリエイター兼代表取締役。トランスを軸に、さまざまなジャンルの音楽を手がける。

――では、「Close to me…」の前からレコーディング自体は何度か経験していたということでしょうか?

KOTOKO I'veさんで最初にレコーディングした曲は「明日の向こう」(「Dear Feeling」収録。コミケおよび通販での限定発売CD)でした。これはあるゲームの主題歌用に書いた曲で、別の方が歌う予定だったんですがゲームの企画がなくなってしまって。それで「試しに歌ってみて」と言われてオーディションを受けて、次の日くらいにはレコーディングしてました。そのあとに歌ったのが「涙の誓い」(「とらいあんぐるハート3 ~Sweet Songs Forever~」OPテーマ)で。でも、声がかわいすぎるからもっと大人っぽく、というリテイクがメーカーさんから来て、もう一度レコーディングしました。初期は実験段階みたいな感じでしたね。デモは、高瀬さんが仮歌を歌ったデモを聴いて覚えたんですよ。

――高瀬さんは歌う作曲家というイメージでしたよね。

KOTOKO でも女性のキーで歌っていたんですよ。だから、ちょっとハスキーな女の人かと思って、「誰ですか」と聞いたら「俺」って言われて(笑)。

――「Close to me…」はデビューシングルながら作詞も担当されていました。

KOTOKO でも作詞家としては、AKIさんが歌う「Pure Heart ~世界で一番アナタが好き~」(「Pure Heart ~世界で一番アナタが好き~」EDテーマ)ですでに世に出ていたんですよ。ただ、歌って歌詞も書いて、というのは「Close to me…」が最初でしたね。多分、高瀬さんの中では「育てる」という考えから両方やらせてみようと思ったんじゃないかな。私が歌も歌えて歌詞も書ける、という認識が高瀬さんの中にはあったんですよ。

――KOTOKOさん自身は歌手というよりもシンガーソングライター志望だったのでしょうか?

KOTOKO もともとはプロの歌手になりたくてボーカルスクールで歌の勉強をしていたんですが、曲も書けたほうが道が開けると思って、作詞作曲も先生から教わっていました。スクールを卒業するときにはレコードレーベルに送るつもりで、自分で曲を書いてレコーディングもして、自主制作CD「空を飛べたら…」も作りました。I'veさんに出入りするようになったのは、そのレコーディングをしている時期で、そのアルバムを高瀬さんにも聴かせていたんですよ。高瀬さんっていい人だから、全然関係ないのにパソコンでCDジャケットを作ってくれて。そのとき、そのCDに入っていた「羽」という曲を気に入ってくださって、CDとして出せたらいいねとは言ってくださっていました(※注)。だから、高瀬さんは私が作詞や作曲をすることは知っていて、それで「ちょっと作詞をやってみて」と言われて書いたのが始まりでした。

※注…その後「羽」は2004年発売のメジャーデビューアルバム「羽-hane-」に収録された。

――では、初めての作詞というわけではなかったんですね。

KOTOKO ただ、本格的に歌詞を書く勉強を始めたのは、I'veのオーディションに受かるより遡ることわずか2、3年前で。趣味では子供の頃から、曲もないのに「ここが1番でここが2番で」って感じで書いてはいましたが、実際の曲に当てはめるとなると、また違いますよね。だから、仕事をしながら経験を積んだという部分は大きいと思います。

――最初に「Pure Heart ~世界で一番アナタが好き~」で作詞したときの感想も教えていただけますか?

KOTOKO 「こんなんでいいのかな」って(笑)。「Pure Heart~」はアンドロイドの女の子が人間の男の子に恋をする、恋を知らないピュアな女の子が恋を覚えていくという話だったので、男性作家には書けない世界観だと思ったんでしょうね。だから私に作詞を振ったんだと思います。私としては自分にできることをやるしかないので、乙女の日記みたいな“ど”直球の甘々な歌詞を書いたんですが、ゲームの主題歌となるプロの作品としてOKなのかわからなくて。恐る恐る出したんですが、ほぼほぼ採用していただきました。そこから、高瀬さんの楽曲は全部私が詞を書くことになりましたね。「曲を書くより詞を書くほうがきつくて、すごく時間がかかるんだよ。KOTOKOちゃん書いてよ」って感じで(笑)。でも私は歌詞を書くことが大好きだったから、楽しくて楽しくてしょうがなかったですね。

――「Close to me…」も含めて、ゲーム主題歌の歌詞を書くときに苦労した点はありましたか?

KOTOKO 作品によって資料の分量が全く違っているんですよ。一番少ないパターンでは、ゲームタイトルとタイトル画面(静止画)しかないとか。

――あらすじは?

KOTOKO ないです、ないです。かと思ったら何十枚もある全シナリオが来るとか。ゲームってルート分岐があるから全部のストーリーを読まないといけないんですよね。でも、私は小説家にもなりたいと思っていたので、タイトルから想像をふくらませることも得意ですし、逆に長文を読んでいても苦にならずすごく没頭できました。

――では、どちらのパターンも楽しみながら?

KOTOKO 「今回はどんな作品かな」「来た来た」って新刊を待つような気持ちでしたね。それに曲先のことが多いので、資料を見ながら曲をずっとループで聴いていると浮かんでくる景色というのもあって。「きっとこの作品で言いたいことはこういうことだ」ってリンクする瞬間が来たらバッと書く、という感じでした。

――作曲者によって作品のどこをピックアップするかも変わりますよね。

KOTOKO 私が言っていいことなのかわからないんですが、メーカーさんのオーダーに忠実なのが中沢(伴行)さん。あとは井内舞子ちゃんもかな。でも、C.G mixさんと高瀬さんはもう無視(笑)。「え? 参考曲はこれだったよね? どうして」みたいなことが多かったです(※注)。

※注…C.G mixさんは、I’veのクリエイターのひとり。中沢伴行さん、井内舞子さんは元メンバー。

――ひらめきを大切にしているのかもしれませんね。

KOTOKO そう。インスピレーションをもらったとは思うんですが、お2人は完全に自分のカラーに落とし込んでしまうことが多くて「私と同じ資料をもらっているのになんでこう来るの?」「おいおい」って感じでしたね。だから、「しょうがないなあ、私が寄せてあげよっか」とは思ってました。でもそういうバランス関係も面白いですよね。

自分のやりたいことができると思えた瞬間

――I'veに所属するとき、PCゲームに対する知識はどの程度お持ちだったんですか? 今と違ってアニメやゲームの主題歌アーティストを目指す人がまだいない時代でしたが。

KOTOKO I'veのオーディションに行ったとき、僕たちはこういう作品の主題歌を作ってるんだよって見せていただいたのがPCゲーム雑誌で、私はそんなゲームがあることすら知りませんでした。で、雑誌を見るとそこにはアニメみたいな絵のかわいい女の子がいっぱい載っていたんですよ。まあ、モザイクがかかっている子もいましたが(笑)。

――ですよね(笑)。

KOTOKO それで私が、「これはのちのちアニメになることもあるんですか」と質問したら、売れたらそういうこともあるよって期待を持たせていただき(笑)、「そっか、じゃあやろうかな」って。

――では、ジャンルは問わず、歌手になりたいという気持ちが強かった?

KOTOKO そうなんです。メジャーデビューを目指してオリジナルも書いていた時期で、とにかく歌の仕事がしたいという気持ちでした。地元だけで流れるようなCMの仕事もちょっとやっていて、もしかしたらそっちに行ったかもしれませんが、たまたまI'veさんのオーディションに受かって、あれよあれよという間にお仕事をたくさんもらえて。知らず知らずのうちにゲームがメインになった感じではありましたね。

――ゲーム主題歌アーティストとしてデビューしたときの感想は覚えていますか?

KOTOKO 私はMacユーザーなのでゲームをプレイできなかったんですよ。でも当時、OP動画がメーカーさんの公式サイトで見られましたよね。それを見て、「はぁーっ♪」「絵がついてる!」って感動しました。こんな(指で小さな四角を描き)小さい画面なんですが。

――これから美少女ゲームが盛り上がっていく、という時代でしたね。

KOTOKO そうなんですよね。ゲームに楽曲が付き始めた頃で、と同時にみんながネット上でコミュニティを作るようにもなっていって。だから、私も(ゲーソンと)一緒に昇っていった感覚はあります。公式サイトで見られるOP動画のサイズが少しずつ大きくなったり、ダウンロードできるミラーサイトが増えたり、掲示板で皆さんが応援してくれたり。

――念願のデビューを果たした前後の時期で印象に残っている楽曲はありますか?

KOTOKO えっとね、BOXに入っていない曲の話をするのはちょっとアレなんですが(笑)、「Close to me…」を歌う前に「Outer」というI'veのユニットでボーカルをやっていたんですよ。「明日の向こう」を実験で歌い、「Pure Heart~」の作詞をして、「涙の誓い」のお仕事が来て、その流れでいくかと思ったらのOuterだったんですね。

――「Synthetic Organism」ですね。かなりハードコアなトランスというか。

KOTOKO そうなんですよね。私はアマチュアバンドもやっていたこともあって、「KOTOKOちゃんならできると思うからスタジオに今から来てくれない?」と言われたんです。それでスタジオに行って、そこで曲を覚えていきなり録ったんですよ。歌ったことがないような声を出して、新しい自分を発見できたので嬉しい気持ちもあったんですが、「あれ? 私、こっちの方向?」と不安に思ったんですよね。だから帰るときにクルッと振り返って、「楽しかったんですけど次はかわいい曲でお願いします」って言ったのを覚えています。そこからの「Close to me…」だったんですよ。

――では、念願がかなったわけですね。

KOTOKO かないました。「Close to me…」は素敵な曲でしたし、歌詞も書かせていただけるということだったので、やっと自分のやりたいことができると思いました。多分高瀬さんとしては、私に何ができるのかをOuterで試してくれたんだと思います。私以外でも、オーディションに受かった子は実験的に使うことで育ててくれるプロデューサーさんでした。だから一番の転機は「Close to me…」ですが、Outerが先にあったという事実も私の中で大きかったです。自分の中に新しいカラーを作っていただきました。

――ただ、帰り際に言い残したくらい、自身としてはかわいい曲への思いも強かったんでしょうね。

KOTOKO そうなんです、歌いたかったんです。アマチュアバンドをやっていたときもJUDY AND MARYのカバーとかやっていて。

――北海道ですからね。

KOTOKO そうなんです、やっぱり女の子ボーカルのバンドに憧れていて、かわいい曲を歌いたい気持ちはありました。

自分の好きなものをファンに受け止めてもらえた感覚

――今のお話は伝説の「さくらんぼキッス 爆発だも~ん」につながる鍵な気がしました。「さくらんぼキッス~」の前にも「あちちな夏の物語」(「Ripple~ブルーシールへようこそ~」主題歌)など、美少女ゲームのテーマソングに新たな流れを作り出していきましたが、そのあたりについても教えてもらえますか?

KOTOKO かわいい曲って、それまでのI'veにはないサウンドだったんですよね。きっかけはSAGA PLANETSさんの「恋愛CHU! -彼女のヒミツはオトコのコ?-」で、その時に参考楽曲としてもらったのがプッチモニの曲だったんですが、高瀬さんたちは「俺には無理」ということで、押し付けられた中沢さんが作ったのが「恋愛CHU!」でした。でも当時の私は、「得意分野が来た!」って腕まくりする感じで、嬉しくて嬉しくて仕方なかったです。だから、頼まれもしないのにいっぱいセリフを入れたんですよね。レコーディングも、一緒に歌ったAKIさんとノリノリでした。ただ、中沢さんも書いたはいいけど全く自信はないし、発注どおりとはいえ、ファンが「こんなのI'veじゃない」って怒るんじゃないかと心配していたんですよ。

――当時、I'veといえばクールなトランスサウンドが人気でしたからね。

KOTOKO 実際、賛否両論が起きて、中沢さんはめちゃめちゃへこんだんですよ。でも、確かに「否」もありましたが「賛」のほうが多いくらいでした。それで私は味を占めたんですよね、「いいでしょ、いいでしょ」って感じで(笑)。だから、「Change my Style ~あなた好みの私に~」(「コスって! My Honey」OPテーマ)の時、やっぱりポップな曲という発注だったので社長に「曲から書いてみる?」と言われたんですが、すぐに「やります!」って。それが作曲から請け負った第1弾で、そのあと何曲かを楽しみながら書かせていただきました。「あちちな夏の物語」も入るかな。それを経ての「さくらんぼキッス~」だったんですよ。

――では、発注はやっぱりポップな女の子らしい曲ということで?

KOTOKO そうですね。ゲーム(「カラフルキッス ~12コの胸キュン!~」)の内容も、妹が12人出てくるというものでしたし。問題ありのテーマだとは思いますが(笑)、ビジュアル的にはかわいい女の子がずらっと並ぶバラエティパックみたいな作品でしたから、キャピキャピした感じを入れたかったんです。それで「ハイハイ」というコーラスを入れました。そうしたら(発売元の)戯画さんからハイハイ以外のパターンもほしいと言われて、mixさん(C.G mix)と話し合い、レコーディングにもう入るところだったんですが、ノリで「キュンキュンとかでいいんじゃない?」って決めました。そうやってできた曲だったんですよ。でも、mixさんの中では実は(松田)聖子ちゃんなんですって。アイドルソングのつもりだったみたいです。それなのに私が勝手に合いの手をいれちゃったんですね。

――今でいうコール、親衛隊のイメージかもしれませんね。

KOTOKO あっ! そうかもしれませんね。今まで考えつかなかった。「L・O・V・E・聖子!」ってやつですね。mixさんから音源が上がってきたとき、合いの手を入れる隙間があると感じ取ったんですよ。だから無言のキャッチボールとして入れたんです(笑)。

――でもそれがグッジョブになったということですね。

KOTOKO グッジョブですよねー。まだ電波ソングという言葉がない時代でしたから。でも、そのあとは、来るオファー来るオファーがそういう曲になり、mixさんも「僕はこういう曲、得意じゃないのに」と言いながら何作も作りましたね。I'veはダークでかっこいい曲も書ける集団なので少し申し訳ない気持ちもありました。でも、自分の好きなものを提案したらファンの皆さんが受け止めてくれた、という結果だったので本当に嬉しかったです。

――「さくらんぼキッス~」は男性にはない感覚を楽曲に投影されているというか、モー娘。の血統も受け継いでいたと考えると、意外と女の子に人気なのも納得できます。LiSAさんもお好きですよね。

KOTOKO そうなんです、私のライブではめっちゃノリノリだったとか。ハラハラしますよね、目立つのに(笑)。でも私、いつもふざけて言うんですが、大きいお兄さんのためだった楽曲が独り歩きして女の子も好きになってくれて、ライブでは“老若にゃんにょ”……(と噛んでしまうKOTOKOさん)、言えてないけど(笑)、が盛り上がってくれるんですよ、パーティーソングみたいに。そういう意味でも好きな楽曲ですね。

温室を飛び出して冒険したいという欲が

―その後、アニメや映画の主題歌などを担当することが増え、アーティストとして躍進していき、そして2009年にはI've外のクリエイターとの活動をスタート。2011年にI’veより独立を果たします。当時、どういった活動を目指す中での決断だったのでしょうか?

KOTOKO 私は多分「欲深い」人間で。I'veさんに所属していたときは正統派の楽曲も感動的なバラードも歌わせていただき、Outerという一面も出させていただき、自分が得意分野となった電波ソングもやらせていただき、本当に何不自由ない環境だったと思うんです。与えられる楽曲も多いから心強いというか。オリジナル曲もアルバムで存分に歌わせていただいていたので、本当に「何をそんなに求めるのか」って感じだと思います。でも、温室育ちみたいな感覚があって、いつまでもI'veのKOTOKOから抜けられない、KOTOKOひとりでの世界観も描きたい、と思ったんですよね。

――では純粋に、自分の中に新しい風を吹かせたい感覚ですね。

KOTOKO そうなんです。冒険したいというか、未知の世界で自分を試したいという気持ちがあって、I'veさん以外の作家さんともやりたいと気持ちがすごく芽生えた時期だったんですよね。

――確かにゲームソングでは齋藤真也さん、アニメ主題歌ではryo(supercell)さん、八木沼悟志(fripSide)さんというトップクリエイターたちと組まれました。外の世界に出たときの一番の発見はなんでしたか?

KOTOKO レコーディングのやり方から全然違っていて、そこにビックリしちゃいました。作家さんが違うんだから楽曲の雰囲気はもちろん違いますが、「私はやっぱり井の中の蛙だったな」と一番思ったのはレコーディングですね。7年も一緒にやっていると段取りが変わらないし、高瀬さんも私のいいところも悪いところもわかっているからI'veでのレコーディングはあうんの呼吸でサクサクと進んでいくんですよ。できなくてもそこは置いといて、という感じで作ってくれるとか。

でも、違う方からディレクションを受けるとすごく追及されることもあって、自分の未熟さに気づかされました。確かに高瀬さんもやさしくも厳しい方ですし、泣かされたこともあるんですが(笑)。

たとえば、「縦を揃えてください」という方がいらっしゃいました。要は言葉のリズムですね。やっぱり感情を入れるので、テイクごとに少し語尾がもたるとか、伸ばし方が少しずつ違っているんですが、何テイクも録った中から一番いいものをチョイスして、ダブりもハモりも一番いいテイクの縦のラインにきっちり合わせていくんですよ。そういう方もいると思ったら、音程をすごく気にする方もいたり。あるいはどちらでもなく、歌に込める感情についてだけ言う方もいました。

それにI'veのスタジオで録ると、マイクのセッティングが「これしかない」って状態にしてもらえるんですよ。だけど、作家さんが違うと好むマイクも変わるから、自分の声の聴こえ方が変わってくるんですよ。私は自分の声ってわりとハイ(=高音)が強いと思っていて、聴こえ過ぎちゃうと音質が硬い感じがして嫌なんです。でも、丸くしてほしいと思ってもそこがうまく伝わらなくて、最初の音作りにすごく時間をかけたこともありました。時間は限られているからある程度のところで我慢するべきだとは思うんですが、その加減もわからないんですよね。まだ違います、まだ違いますと追求しすぎてわからなくなるとか。ホント、レコーディング現場は作家さんによって全然違うということを思い知りました。

――マイク位置ひとつとっても聴こえ方が変わり、気持ちが変わりますよね。

KOTOKO そうなんですよ。やっぱり気分が乗らないと、自分の歌のいいところを発揮できないんですよね。その意味では、自分のメンタルをいつでも平均以上に整えるだけの実力はない、と如実にわかった瞬間でした。つい先日も高瀬さんのところで歌ってきたんですが、入ってすぐ歌えばいいし、その場で組んでいただいたラフミックスはそのまま納品してもいいくらいに自分の声のよさを出してくれているし。私の声の一番いいところをわかってくださっているのは高瀬さんだな、って実感しました。でも、高瀬さんの素晴らしさがわかったのも外に出たからですよね。I'veにいたらわからないこともたくさんあったので、冒険してよかったと思っています。

おばあちゃんになってもかわいく「さくらんぼキッス」を

――改めて15周年というタイミングでゲームソングのコンプリートボックスを出すというのはどういう思いからだったのでしょうか?

KOTOKO コンプリートボックスに関してはずっと出したいと思っていて、その相談もしていました。ただ、15周年の最後のタイミングで、と言ってくださったのは、NBCユニバーサルの西村(潤)プロデューサーでした。まさかメジャーレーベルから発売できるとは……。出せてもインディーズのような形になるかと思っていたんですが、メジャー流通に乗るということが大きな喜びでした。たとえば、コミケでの発売だけとなるとまたレア物になってしまいますし。メジャー流通に乗れば格段に皆さんに手に取っていただきやすくなる。そこは本当にありがたかったです。

――KOTOKOさんが歌ってきた楽曲は、CDとしてメジャーで流通していないものも多かったので、ファンも嬉しい限りだと思います。「The Bible」というタイトルはKOTOKOさんのアイデアですか?

KOTOKO はい。「Dictionary」(辞書)にしようかとも迷ったんですが、昔からのファンにとっては「これが俺の歴史」と言ってもらえると思いますし、新しく知る人にとってもまさに歴史を振り返る教典になると思うので、「これはもうバイブルでしょ?」って気持ちでつけちゃいました。自分で言うと少し偉そうですけどね(笑)。

――でも、「COMPLETE」や「HISTORY」といったタイトルよりも意気込みを感じました。

KOTOKO そうですね。どう思われるかな、という思いもあったんですが、西村さんに15年やってきた歴史があるからこそつけられるタイトルだと言ってもらえたので、胸を張って「The Bible」というタイトルにしました。

――15年歌い続けてきて、KOTOKOとはどんなアーティストになったと感じていますか?

KOTOKO 想像もしていなかったスタイルのアーティストになれたという実感がありますね。さっき言ったように、最初は何者でもなかったんですよ。でも、たくさんの実験を繰り返していただく中、ガールズロックバンドのボーカルを目指していたひとりの歌好きの女の子がいろいろなKOTOKOを発見できた、そんな歴史だったと思います。楽曲のカラーもさまざまですしね。ここまで幅広い音楽に接して、贅沢にも無限の引き出しを作らせてもらったということは本当に何にも代え難い財産なんですよ。1曲ごとに成長させてもらい、すごいところまでやってきたとは思います。

――自分に対して誇らしい気持ちですか?

KOTOKO まだまだ満足できてはいませんが。でも、ゲームのさまざまなシナリオに触れることで、書く歌詞も幅広くなったし、歌い方もそれに合わせていろいろと実験できたし、そういった1個1個のパーツによって今、「私のジャンルはオールマイティーですよ」と言えるアーティスト性を持てたんですよね。なので、そういうKOTOKOを作れたのはやっぱり、(「The Bible」のボックスを触りながら)この作品たちだなって思います。

――強欲ということですが、KOTOKOさんは今、どんな欲望を抱いていますか?

KOTOKO 夢はさまざまありますが、ワールドワイドに活動したいので、行っていない国でもライブをやりたいというのがひとつ。それから、15周年イヤーで公表させていただいた生涯現役、これですね。そのためにもコツコツと自分の体力、精神力を磨き、「絶対に生き残ってやるぞ」と思っています。

――淡谷のり子さんや梓みちよさんのように歌い続ける存在に。ぜひ70歳になっても「さくらんぼキッス」をかわいく歌っていただけたら嬉しいです。

KOTOKO それが目標なんですよ。おばあちゃんになるとキーが下がって歌えなくなることが多いので、キーを下げずに歌えるように。だから、どちらかというと(水森)亜土ちゃんが目標ですね。わかるかな(笑)。

――亜土ちゃんは80歳になってもステージに立たれていますしね。ではゲーソン・アニソン界の水森亜土に(笑)。

KOTOKO そうですね。かわいいおばあちゃんを目指します。

(取材・文/清水耕司)

【CD情報】

■KOTOKO’s GAME SONG COMPLETE BOX 「The Bible」

・発売日:2020年4月21日

・価格:【初回限定盤(10CD+Blu-ray)】17,000円(税別)、【通常盤(10CD)】15,000円(税別)

<初回限定版特典(Blu-ray)内容>

・KOTOKO Major Debut 15th Anniversary Tour ”Fifteen Tales” IN TAIPEIの

  ゲームソング歌唱パートを収録

収録曲はこちらでご確認を!

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