アニメーション監督・小川優樹 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第41回)
アニメ・ゲーム業界は多士済済(たしせいせい)、才能の宝庫だ。連載第41回は、若き期待のアニメーション監督・小川優樹さん。小川監督作品の中で今最も注目されているのは、異種族が共存する世界の夜の街をエロティックかつ人間味豊かに描いた、「異種族レビュアーズ」であろう。若手ながらもその演出力、特に女性描写には以前から定評があり、初監督の「大家さんは思春期!」では中学生の女の子のかわいらしさを、「みるタイツ」では女性の脚とタイツの美麗さを見事に表現している。だが美少女ものに特化した監督、というわけではない。絵コンテでは「ナンバカ」、「時間の支配者」、「フルーツバスケット」といった作品にも参加しており、アクションからヒューマンドラマまでさまざまなジャンルを手がける、正統派のアニメ演出家なのだ。当記事ではそんな小川さんのキャリアを紹介しつつ、画作りのこだわり、スタッフ・キャストの選び方、業界の課題、今後の挑戦などについてもじっくりと語っていただいた。「異種族レビュアーズ」制作秘話もあるので、興味のある方はぜひ最後までお読みいただきたい。
どんなジャンルの作品も、「本名」で参加する監督
─本日はどうぞよろしくお願いいたします。最初に、小川さんが考えるアニメーション監督の魅力とは何でしょうか?
小川優樹(以下、小川) 自分はアニメーターとして作画から始めて、演出、絵コンテ、監督とやってきているんですけど、監督はすべての工程に立ち会える、どんどん完成していくところを間近で見られる、というのが楽しいですね。原作のある作品をやった時に、原作ファンの人から「よかった!」と言ってもらえるのも、すごくうれしいです。
─監督作品は「大家さんは思春期!」(2016)、「フリクリ プログレ」(2018)第3話「ミズキリ」、「みるタイツ」(2019)、「異種族レビュアーズ」(2020)となりますが、話数単位で参加された作品を見ても、いわゆる美少女ものが多いようです。美少女ものがお得意なのでしょうか?
小川 得意というか、今オファーが来ているのは、深夜向けの女の子のかわいらしさを見せるものが多いです。さらに言えば、フェチが濃いというか、ディープな一部の層に人気があるものをやると、評価してもらえるというか、反応がいい感じはしますね。
─性的描写にもご抵抗ないのですね。性的描写のある作品は匿名を使って参加する方もいらっしゃいますが、「魔装学園HxH」(2015)も「異種族レビュアーズ」も、ご本名で参加されています。
小川 自分はそこに抵抗はなくて、むしろ調べて研究しているくらいです(笑)。18禁アニメの原画もヘルプで手伝った時があって、「オトメドリ」(2012)も本名で載っています。
─創作活動にあたり、一番影響受けた作品は?
小川 最初に好きになったアニメは、子供の頃に観た「ポケットモンスター」(1997~)です。自分はアニメが好きでこの業界に入ったんですけど、「ポケモン」に参加したくて業界に入った、というのもあります。
─フィルモグラフィーだけを見ると深夜アニメがお好きなのかなと思ってしまいますが、小川さんの根っこにあるのは子供向けアニメなのですね。実際、小川さんは「ポケットモンスター ベストウイッシュ」(2010~13)第52話の原画や、「ポケットモンスター XY」(2013~16)第13話の演出助手もされています。
小川 業界に入って半年ぐらいで大好きな「ポケモン」に関われたので、本当にうれしかったです!
「今までアニメ化されていないジャンル」に参加したい
─参加作品はどのように決めているのでしょうか?
小川 原作を読んだ時におもしろいもの、今までアニメ 化されていないジャンルを選んでいる感じはありますね。自分にも流行ジャンルの作品依頼が来るんですけど、それに関しては「自分がやらなくてもいいんじゃないかな」、「自分がやってもあまり変わらないと思います」と断ったりしています。ジャンルを聞いた時にいっぱい作品が思い浮かぶようなところには行きたくない、というか、「みるタイツ」であればひたすらタイツを映しまくるとか、「大家さんは思春期!」であれば枚数を気にせず90秒でかわいいをどこまで詰め込めるか、とか聞いたことがないじゃないですか。
─小川さんが絵コンテで参加された「京都寺町三条のホームズ」(2018)も、骨董品鑑定と推理ものがミックスされたユニークな作品でした。
小川 女性向け作品は自分で進んで取ったことがあまりないので、「京都寺町三条のホームズ」はやってみようかなと思って受けた作品ですね。
─「フルーツバスケット」(2019)第20話の絵コンテも描かれています。
小川 「フルーツバスケット」は、学生の頃に大地丙太郎監督版(2001)を観ていて好きだったので、「フリクリ プログレ」でご一緒した井端義秀監督に誘ってもらい参加しました。
─「フリクリ プログレ」もどうジャンル分けしたらいいかわからない、唯一無二の作品でした。
小川 鶴巻和哉監督の前作(2000~01)が好きで、「プログレ」は若い人たちで作るということだったので、「前作を超えられるかどうかわからないですけど、やってみたいです!」と言って参加させてもらいました。
─制作会社やデスク・プロデューサーも考慮に入れますか?
小川 1回組んでみてヤバかったら受けないというのはありますけど、噂を鵜呑みにして断る、というのはないですね。興味のある作品を振ってくれた会社とは1回は組んで、自分で確かめるようにしています。
「カメラの寄り引きのリズム」を意識した画作り
─画作りでこだわっておられることは?
小川 メリハリは意識していますね。自分は「機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZER」(2006)の西澤晋監督の演出講座を卒業しているんですけど、初めのほうで、「今のアニメは中途半端なフレーミングでキャラクターをわちゃわちゃ映し続けているカットがあるから、カメラの寄り引きのリズムを意識してやらないと、観ている人が飽きちゃうよ」みたいな話をしていただいたんですよね。自分の好きな作品を観ると、確かに、感情表現になるとカメラを寄せ、説明表現になるとカメラを引いたりしていたので、自分もそういうリズムは意識してやるようにしています。
─エスタブリッシングショット(編注:状況やキャラクターの位置関係が把握できるショット)のカメラポジションも、西澤さんの影響を受けているように思いますが、いかがでしょうか?
小川 それは意識したことはないですけど、大人向けと子供向けでエスタブリッシングショットの見せ方、順番を変えることはありますね。大人向けや深夜の作品だと、シーンの後半に見せるんですよ。最初はアップでキャラがしゃべっていて、引いたらこうなっています、みたいな感じで。子供向け作品は逆に先に引いた画を見せて、そこにいる人たちがこうやってしゃべっています、みたいな見せ方をしています。子供は最初に状況がわからないと、混乱してしまいますから。
─キャラクターのカメラ目線も、お好きな表現のひとつなのでは? たとえば、「みるタイツ」第9話には、ホミがこたつ布団をめくってのぞきこんでくるカット、「はじめてのギャル」(2017)第1話にはゆかなの口が色っぽく迫ってくるカット、「フリクリ プログレ」第3話には、森がカメラに顔を寄せて自慢気にガールフレンドについて語るカットがありました。「異種族レビュアーズ」第10話でも、クリムの股間に向かうデミアの口をカメラ目線で表現していました。
小川 カメラ目線は、迫力があってドキッとする効果が強いので、感情に訴えたり、しっかり見せたい時には使いますね。
─フェチ的なところで言うと、胸よりもお尻のフレーミングにこだわりがあるように感じました。「異種族レビュアーズ」では何気ないカットにもメイドリーやクリムのお尻が映り込んでいましたし、「おくさまが生徒会長!」(2015)や「俺が好きなのは妹だけど妹じゃない」(2018)の小川コンテ回でも、女性キャラのお尻がさり気なくフレーミングされていました。
小川 作品に合っていることが大前提ですけど、お尻をフレーミングするのは好きですね(笑)。
─女性キャラクターの全身をカメラでなめて見せていくのも、小川演出の見どころかと思います。「おくさまが生徒会長!」第1話の、かわいらしく振り向く羽衣、「大家さんは思春期!」第11話の、いろいろな服を試着するチエ、「みるタイツ」第5話の、水着タイツ姿で眠ってしまうホミ、第11話の、リボンでがんじがらめになって困り果てるレン、「異種族レビュアーズ」の色っぽいサキュ嬢などが、記憶に残っています。
小川 エッチなアングルを下から上に映したり、胸の谷間からちょっと引いてキャラクターを見せたりというのは、亀井幹太監督が「冴えない彼女の育てかた」(2015)とかでやっているのを見て、自分のコンテでも参考にしたのが最初だと思いますね。
─「フリクリ プログレ」や「時間の支配者」(2017)は、空中を使った立体的なアクションシーンも印象的でした。
小川 アクションシーンをどう表現するかはコンテの腕の見せどころです。脚本には「迫っていく」とか「振りかぶる」とだけしか書かれていないので。自分の場合はカメラが少しブレるとか、ピントが少しズレるとか、ちょっと遅れてカメラがキャラに来るとか、リアルなものを撮っている感じが出るように工夫しています。実写のアクション映画を観ていると、カメラが人物を追っていても、キレイに動かないんですよね。撮影さんとは毎回相談しながらいろいろ新しいことに挑戦しています。
─風を使ったラストシーンの作り方も大変見事で、「みるタイツ」第12話で、カメラを主人公たちの顔からタイツへと移動させる突風や、「フルーツバスケット」第20話の、燈路が杞紗に微笑むシーンで髪を揺らすそよ風などが思い出されます。
小川 ありがとうございます。「フルーツバスケット」は原作が好きで、燈路というキャラもよく覚えていたし、お話も本当におもしろかったので、観ている人にもドキッとしてもらいたいなと思って、最後だけ髪をちょっとなびかせました。
「作画崩壊させない」決意で集めた、「異種族レビュアーズ」スタッフ
─スタッフ選定でこだわっておられることは? メインスタッフは全員、ご自身で選ばれるのでしょうか?
小川 同じ制作会社で2作目を作ることになれば、1作目でよかった人に引き続きお願いしたいと思っています。でも、自分はまだ初めて組むスタジオが多くて、その場合はすでにアニメーションプロデューサーが集めたスタッフ候補の方がいて、逆に自分が単身で行くことになります。キャラクターデザイナーはオーディションの可能性もあるんですけどね。いずれは、自分の信頼できる人たちだけでチームを作って、プラスアルファでスタジオの方に来てもらう、みたいな形にしたいなとは思っています。
─「異種族レビュアーズ」のスタッフィングで、何か特別なやり方はありましたか?
小川 パッショーネさんの場合、「この額で作ることになったので、配分を一緒に決めましょう」と、監督も予算配分を一緒に決めさせてくれるんですよ。予算会議に参加させてもらったのは初めての経験でした。アニメーションプロデューサーの西藤和広さんに「どこに重きを置きたいですか?」と聞かれたので、自分は「この作品でキャラクターの作画が崩れて、かわいくなくなったらもう終わりなので、メインアニメーターを増やして、総作画監督も増やして、うまい原画マンを拘束してほしい」とお願いしました。
─なるほど。それで、キャラクターデザインのうのまことさんのほかに、総作画監督が3名、メインアニメーターが2名もいらっしゃるわけですね。美少女ゲーム雑誌「メガストア」の表紙イラストで有名な、うめつゆきのりさんも原画で参加されていて、確かに作画を絶対に崩さない意志が感じられる重厚な布陣です。
小川 総作監は多分、2人だと間に合わなかったと思います。枚数を贅沢に使い、引きでも画が崩れないように修正、修正、修正……と出し続けていたので。うめつさんは、自分がスタジオに来た時にはすでにいらっしゃいました。「ヨスガノソラ」(2015)や「citrus」(2018)の高橋丈夫監督もそうですけど、パッショーネにはエロ描写が得意なスタッフが大勢いて助かりました。
─「異種族レビュアーズ」は、アニメオリジナルのキャラクターがたくさんいることも注目されました。レギュラーモブたちはどなたがデザインされたのでしょうか? ちなみにDTは、最終話でかなり目立っていましたね(笑)。
小川 全部、うのさんのデザインです。原作マンガはスタンクたちがレビューした表で終わりなんですけど、アニメではこの文字だけの表を映すよりも、「表を読んで反応している、視聴者と同じ目線の観客を作ってほしい」と、うのさんにデザインをお願いしました。違う種族のモブがいっぱいいれば、多様な世界なんだということがわかってもらえる。彼らがレビューを読んで反応したり、ワイワイしたりしているところを見せれば、視聴者にも共感してもらえるんじゃないか。そういうことを考えながら作ったので、あえて本編とは被らない種族のキャラクターにしています。
─小川さんご自身でお声がけされた方は?
小川 高津純平さんには自分で連絡してお願いしました。高津さんは「時間の支配者」の撮影監督ですけど、その時の仕事がすばらしかったので、「高津さんにやってほしいです!」と相談したら、「最初の画面設計までなら手伝える」という答えだったので、コンポジットスーパーバイザーで入っていただきました。「キャラクターの処理はこうしよう」とか、シーンごとの画面設計は高津さんと1対1で話し合って決めて、それをもとに撮影の人にお願いするという形でやりました。
─個人的には食酒亭、性のマリオネット、女体焼肉火竜、サキュバスタワー、ネクロワイフ、悪魔の穴、花蜜など、美術のほうも多彩で緻密に描き込まれているなと感じました。
小川 ありがとうございます。異世界ファンタジーは下地がしっかりしていないと観ている人が気になってしまうので、設定制作の新井健介さんと一緒に調べたりしました。でも、美術や撮影スタッフの方には申し訳なく思っています。というのも、「異種族レビュアーズ」は「作画に予算を振る」ことからスタートしているので、背景と撮影は、ほかの作品よりも低い報酬でお願いせざるを得なかったんですよ……。
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