「ハクション大魔王2020」――50年ぶりの続編がつくられた理由【アニメ業界ウォッチング第66回】

1969年に放送された「ハクション大魔王」の新作、「ハクション大魔王2020」が4月から読売テレビ・日本テレビ系列で放送中だ。これまで、大魔王の娘・アクビを主人公にした番外編的なシリーズやFLASHアニメは製作されてきたが、地上波で毎週30分のテレビアニメは実に50年ぶり。キャストは一新されており、現代風のリメイクかと思いきや、なんと旧作から50年後を舞台にした正統な続編……という思い切った内容だ。
監督の濁川敦(にごりかわあつし)さん、クリエイティブディレクターのモギシンゴさんに、新作の企画意図や手ごたえをうかがってみた。

衝撃的なルックスの“ダンディな大魔王”は、別班体制で作画


──土曜夕方5時30分という、ファミリー向け、子ども向けとしては抜群によい時間帯の放送ですね。

濁川 僕の監督させてもらってきた番組は、ほとんどが深夜枠のアニメでした。今回は幅広い年齢層の方に見ていただける時間帯の番組なので、やりがいを感じています。

──どういう経緯で、濁川さんが監督することになったのですか?

モギ 経緯は複雑なのですが、今回の「ハクション大魔王2020」はタツノコプロと日本アニメーションさんの制作です。濁川監督が日アニにいらしたこと、過去の作品とのマッチングなどからお願いすることになりました。

濁川 今作の作画の現場は、日本アニメーションさんです。僕はキャリアの最初が日アニ作品で、フリーになった後も日アニさんとは仕事をさせてもらってきました。声をかけていただいて、「ハクション大魔王」のような誰でも知っている作品を監督できてうれしい半面、プレッシャーも感じました。


──内容的には、いかがでしょう?

濁川 新作のカンちゃんは、旧作のカンちゃんとは対極的な主人公です。あまり外で遊びたがらず、ネットやバーチャルなものでわかった気になっている。典型的な現代っ子です。

モギ 旧作は、昭和の子どものスタンダードを描いていましたから、今作では現代のスタンダードを描くべきだと思いました。続編とは言わないようにしているのですが、旧作とは地続きの世界観です。一見するとリメイクのように見えるのですが、内容を見ていくと旧作のカンちゃんがおじいちゃんになっていて、今作のカンちゃんは孫なのだとわかるようになっています。

濁川 新しいカンちゃんは小学5年生なので、中学1年生ぐらいまでの子どもたちがもっとも共感できるように思います。同時に旧作との繋がりがあるので、大人世代も大魔王やアクビに親しみをもてるはずです。新しく作品を見る子ども世代にも、旧作を覚えている大人世代にも、それぞれ幅広く思い入れしてもらえる番組を目指しています。

──旧作の「ハクション大魔王」は再放送が非常に頻繁に行われていて、企業や商品とのコラボレーションが途切れない人気作品ですね。

モギ 会社としても、どうしてこんなに愛されているのか、その理由はハッキリとわからないんです。おじいちゃん・おばあちゃん世代から子どもまで、数あるタツノコキャラの中でも認知度はNo.1です。有名なところでは、鼻炎治療薬のイメージキャラクターに採用していただいて、町の耳鼻科に行くと大魔王の人形が置いてあるようなこともありました。

濁川 キャラクターデザインとしては、とてもわかりやすいんです。遠くから見てもシルエットにしても、ひと目でわかるぐらいです。

──新作をつくるにあたり、なじみのデザインを変えてしまおうとは考えませんでしたか?

モギ はい、企画段階では「旧作は旧作として別に考えて、まったく新しいアプローチにしてはどうか?」という案も出ました。巡り巡って、旧作のイメージを踏襲したデザインに落ち着きました。


──とはいえ、アバンタイトルで本編とは等身の違う大魔王やアクビ、アクビの弟のプゥータが出てきますね。

モギ 壺の中をくぐって現実の世界に出てくるときに、皆さんがよく知っている姿になるという新しい設定を加えました。壺の向こうの世界では時間の流れが現実とは異なり、大魔王もダンディな姿なわけです。話すトーンもまったく違うけど、同じ声優さんに演じていただいています。キャラクターデザインも作画も、本編とは別班体制で制作しています。

──すると、魔法界では日常とは別のドラマが進行するんですか?

濁川 ドラマというか、“コーナー”に近いです。毎回、アバンタイトルは魔法界のコーナーから始まります。このコーナーが、後半になると、本編にも関わってきます。ですから、昔のキャラクターたちを大事にしながらも、すでに知っている人たちがビックリするような仕掛けも用意してあるわけです。

モギ 旧作そのままではなく、いろいろと新しいこと、これまで取りこぼしていた層を振り向かせるような施策も決定しています。

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