コロナ共生時代のアニメ制作はどうなる? 共同プロジェクト「モンスト×マッドハウス」を通して見えるものとは──砂村哲平(モンスト・クリエイティブディレクター)×福士裕一郎(アニメーションプロデューサー)×平澤直(プロデューサー)インタビュー
ゲーム、アニメなどさまざまなメディアで展開するミクシィ・XFLAGの人気コンテンツ「モンスターストライク」(以下、モンスト)と、日本を代表するアニメスタジオ「マッドハウス」がタッグを組んだ。
「モンスト」とマッドハウスが、「エンタメで世の中を元気にしたい!」というコンセプトの共同プロジェクト「モンスト×マッドハウス」のもと、ショートフィルムを発表した。本作は、スマホアプリ「モンスターストライク」内で開催されるイベント「超・獣神祭」に、2020年5月30日正午より登場する新限定キャラクター・アミダを主人公にした映像作品で、気鋭のガールズバンド「カネヨリマサル」の楽曲「NO NAME」に乗せて、ダイナミックな映像が展開する。
新型コロナウイルスによる停滞ムードが、現在進行形で世界の在り方を変容させ続ける中、結果として、非常に時事性の高いコンセプトとなった本プロジェクトだが、そこにはどんな思いやメッセージが込められているのだろうか。
今回は、リモート取材という形で「モンスト」のキャラクター開発や「モンソニ!」の立ち上げなど、さまざまな企画を手がける株式会社ミクシィの砂村哲平さん、マッドハウスのアニメーションプロデューサー・福士裕一郎さん、そしてミクシィとマッドハウスをつなげた立役者であるアーチ株式会社のプロデューサー・平澤直さんにインタビューを敢行。
ショートフィルム制作秘話から、誰もが気になるアニメ業界の今後についての予測をうかがった。
アニメシリーズほどの内容を4分の映像に凝縮!
──「モンスト×マッドハウス」とは、どういうプロジェクトになるのでしょうか?
砂村 以前より「モンスト」の新しいキャラクターを発表するタイミングに合わせて、「モンスト」が大事にしている価値観やブランドメッセージ──「人と人とのつながり」をしっかりと乗せた映像作品をプロモーションの中で発信していきたいと考えていたのですが、ちょうど昨年の秋頃にアーチの平澤さんよりマッドハウスさんをご紹介していただいたことを発端に、今回のように「モンスト」の新キャラを世に出しながら、エンタメで世の中を元気にしたい!というコンセプトでクリエイターが集結するというプロジェクトになっていきました。
平澤 砂村さんとは2014年10月以来、かれこれ5年半以上の仲になります。「モンスト」のアニメ化などに携わり、いろいろな会話をしてきた中で、砂村さんから出てくる言葉の端々にいくつかキーワードがあったんです。
ひとつは「みんなを元気にしたい」「明るくしたい」「ワイワイ楽しませたい」。そして「バトルエンターテインメント」「熱くさせたい」。3つ目が「ワンパンマンが好き」という言葉です。
XFLAGさんは、王道のバトルエンターテインメントを提供しながら、それをみんなで楽しんでほしい、という気持ちがあるクリエイティブな会社だと理解していましたが、それを聞いて、お客さんの気持ちに寄り添って一緒に盛り上げていきたいという気持ちも強いんだな、とも感じました。
その思いに応えるためには、強度の高いクリエイティブを発揮できるスタジオさんの力が不可欠で、それに呼応してお客さんを大事にしているマーケティングの力も、相乗効果で上がってくるだろうと思ったんです。
そこでミクシィさんのパワーと向き合えるスタジオを探している中で、福士さんに持ちかけたんです。福士さんは「ワンパンマン」を担当されていましたし、以前所属していらっしゃったGONZOさんでもいい評価を耳にしていたので、いつか一緒にやりたいと思っていたのですが、それまで自分の力では福士さんのチームが活躍できるような面白い企画を持っていけなかったんです。
でも、砂村さんの話を聞いて、「これくらい面白い話(「モンスト」の新キャラの魅力を人と人とのつながりを大切にするというブランドメッセージを乗せた映像作品を通じて発信する)だったら、いけそうだな」「そこにマッドハウスさんのクリエイティブを出してもらった時に、面白いことができるかもしれない」と話をもっていきました。それが2019年の秋口くらいの話です。
──福士さんは最初にお話を聞いた時、どういう印象を持たれましたか?
福士 平澤さんとは以前から知り合っていまして、私もいつか縁があれば、と思っていました。今回提案いただいた企画については、ゲームのアニメ映像作品はあまりやってこなかったということもあり、非常に興味をそそられましたね。
最初から「短尺のアニメを作りましょう」という形で話をいただきまして、やりがいのある座組にも映像にもなるかなと思い、前向きに話をさせていただき、正式に企画を進めることになりました。
──そこからミュージックビデオのようなショートフィルムにしていこうという話は、みなさんで自然と共有できていった感じですか?
砂村 期間も限られていましたし、その中で、見ていただくユーザーさんにいかにすれば感情移入してもらえるのかを考えたところ、普通の短いお話を提供するよりは、音楽に乗せた映像作品のほうがいいんじゃないかという話になりました。
音楽は短い時間で人の感情を動かすのに非常に優れた表現手段ですし、映像に音楽が乗ることで、メロディや歌詞がセリフやストーリーを補完する機能を担って、メッセージ性がより強固になるのではないかと考えました。
──新キャラクター「アミダ」を使った作品になることは、どのように決まったのでしょうか?
砂村 「モンスト」としては、ゲーム内で開催される「超・獣神祭」というイベントはユーザーさんも楽しみにしている特に熱量が高まるイベントで、こんなにも素晴らしいクリエイターの皆さんとご一緒できるなら、しっかりとこの熱量の高いイベントに当てたいと思いまして、「超・獣神祭」に出てくるキャラクターの「アミダ」がいいよね、ということになりました。
──ショートフィルムに関してはストーリーと楽曲、どちらが先にありましたか?
砂村 ストーリーです。私たちとしては、短い尺の中でもしっかりとキャラクターと映像に一貫したテーマとメッセージ性を持たせいと考えていましたので、今回の場合は、人と人が共有するものである「思い出」をひとつのテーマに設定して、まずストーリーと同時並行でキャラクター設定を作っていきました。
──映像作品としては4分弱の尺なのですが、それ以上の長さのストーリーを最初に設定されたのでしょうか?
砂村 3~4分で物語をまとめる技能がそもそもないので(笑)、シリーズものアニメが作れるほどの原案を作ったかもしれません。それをみなさんのお力を借りて、ギュッと4分に収めてもらいました。
初監督となった原科大樹さん起用の理由とは
──具体的なストーリーは原科大樹監督が考えられたのでしょうか?
福士 砂村さんから原案を出してもらって、打ち合わせの場に原科さんも立ち合っていただき、いろいろとお話をさせていただきました。最初から最後まで、そうとう長いストーリーを作ってもらい、音楽が決まり、全体の尺が決まってから、どういうまとめ方、見せ方をするのかを原科さんに考えてもらい、絵コンテに落とし込んでいただきました。
平澤 砂村さんは、テキストを自分で書かれる方なんです。以前、歌詞も書いてらっしゃいましたよね?
砂村 非常にお恥ずかしいのですが(笑)。私がクリエイティブをプロデュースさせていただいている音楽×モンストをコンセプトとした「モンソニ!」というモンストのスピンオフコンテンツがあるのですが、そこに在籍するグループの歌詞やアニメのストーリー原案、番組の台本などを一部書かせていただいています。(ぜひともこちらも応援よろしくお願いします!)
平澤 こういうことを世界に対して打ち出したい、というビジョンを硬い言葉ではなく、歌詞のような形で書かれているのを見て、それを軸に「じゃあこういうキャラでこういうストーリーだな……」という感じになっていったと思います。アクションエンターテインメントなのに殴って倒さない、というアミダの最後の解決の仕方も、砂村さんから初期段階で出ていました。映像の根幹にかかわる「アミダというキャラクターの価値基準」「作品を通して伝えたいこと」といった部分は砂村さんによるところが大きく、それを短い尺の中でどうアップダウンつけていくかは、原科さんが考えてくださいました。
そういう風に、抽象的なところと具体的なところをキャッチボールしていって内容を詰めていく……という作り方でした。
最初に何回か打ち合わせをしたあと、コンセプトが出たら、あとは将棋の手を詰めていくように、福士さんと原科さんが道を切り開いてくれて、僕らは「すごい、すごい」と声を上げるばかりでしたね。
砂村 マッドハウスさんのお力はもちろんのこと、ショートフィルムだからこそまとめやすかったところもあるかな、と思います。長かったら長かったで「ああじゃない、こうじゃない」とよくも悪くもさまざまなアイデアが取り留めなく出過ぎて、プリプロに時間がかかり過ぎてしまったのかなという気がします。
──映像的な見どころとしては、まさしく原科監督のキャリアの現時点での集大成ともいえるところじゃないかなと感じました。マッドハウスならではの美しい映像と細かい動きがありつつ、スタジオカラーでキャリアをスタートされたということで、そのルーツとなるガイナックス作品を彷彿とさせるケレン味あふれるカットもある、非常に見応えのある仕上がりとなっています。今回、原科さんを起用した経緯を教えていただけますか?
福士 原科さんとは、数年前にお仕事で初めてお会いしました。当時はまだカラーにいらっしゃったのですが、その出会いが縁で、気が付いたらマッドハウスに在籍して作画スタッフとして関わってくださっていました。
すごく勢いがあるといいますか、仕事に対する取り組み方がすごくいい方なんです。一緒に仕事を続けていて、人や作品との向きあい方を見て、責任も背負える方とわかっていましたのでお願いさせていただきました。
今回目指したのは、何度も見てもらえる映像にしたい、ということです。その点でいうと、原科さんの興味や熱量が詰まるといい映像になるでしょうし、かつ現場をまとめる求心力にもなってくれるかな、と考えたんです。
キャリア的には、絵コンテを描いてみるとか人をまとめることは初めてでしたので、そこは社内の久貝(典史)さん、斎藤(圭一郎)さん といったうちのコアなメンバーとも協力していただきました。
私の仕事はスタッフに力を発揮してもらう現場作りで、演出面は全て原科さんが背負っていまして、一番大変だったのは先ほどもお話に出たのですが、砂村さんからいただいている長いストーリーのうち、どこを切り取ってどういう見せ方をしたら4分の中でまとまるのか?ということを考えつつ、しっくりくるところを探すところでした。どこをとっても画になるものを用意していただいていたのですが、原科さんとしては一番しっくりくるところを探す作業にもっとも苦労されていたと思います。
──ストーリーを追いかけていると、断片的ながら後半に結構重い展開が待ち構えていて、いろいろなことを考えさせられてしまいました。音楽に乗せたショートアニメフィルムということでライトな方向に持っていくこともできたかと思うのですが、あえてヘビーな方向に持っていったのは、砂村さんとしてはどういう意図があったのでしょうか。
砂村 直感的に見て気持ちいい、カッコいいというところは絶対守りたいけど、見終わった後にいろいろな解釈ができたりする余地があれば、と思いました。個人的にも、そういうのが好きだったりもします。
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