シナリオは面白いことが大前提!アニメ「妖怪ウォッチ」監督 ウシロシンジが語る制作の裏側

『妖怪ウォッチ』は、レベルファイブが手掛けるゲームを原作に、アニメ、マンガ、玩具…とクロスメディア展開されている作品。同名の玩具は子ども達の間で大人気となる。12月20日に公開される冬休み映画『妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』もすでに前売券の販売枚数が96万枚を突破し、1作公開前に2作目公開も決定するなど、その人気は、もはや社会現象となっているほどだ。

そのアニメ版に携わるウシロシンジさんに『妖怪ウォッチ』監督就任の経緯から、エピソードがどのように生み出されているのか、制作の裏側を語ってもらった。


妖怪は、その場のノリで決まる。


――ウシロ監督は、どのような経緯で『妖怪ウォッチ』の監督になったのですか?

OLM制作の『ダンボール戦機』でオープニングや各話の絵コンテを切らせていただきまして、それがきっかけで「今度、こういう企画をやるんですけど、いかがでしょう?」と声をかけていただいたんです。実際にシナリオに入る段階で声をかけられたので、アニメの現場が動き出す直前というタイミングでしたね。

――シナリオは、レベルファイブさんが用意していたのですか?

もちろん「こんな雰囲気で進めます」という構想は、レベルファイブさんにありました。僕のほうでは、それをテレビアニメのフォーマットに落とし込む作業……たとえば、30分の枠の中でオムニバス形式にするにはどのようにするのがいいのかなど提案をさせていただきました。

――アニメの制作が始まってからも、レベルファイブさんは打ち合わせに参加されているのですか?

そうですね、レベルファイブの日野晃博さんがシナリオ打ち(打ち合わせ)に参加しています。

――では、毎週のエピソードに出てくる妖怪も、すでに決まっていて……

いえ、どちらかというと打ち合わせのノリで決まっています(笑)。最初は「今週はこのキャラクターで行こう」と言っていたのに、途中で「この妖怪を出すんだったら、この妖怪をぶつけたほうがいいんじゃないか」と変わってしまったりもしますし、もうバラバラです。とにかく「面白いかどうか」を徹底させています。面白ければ、お話もキャラクターも変えます。「こっちのほうが面白いんだから、いっそ、新しい妖怪を作っては?」なんて提案させて頂くことさえあります。



――てっきり、毎週ローテーションで決まっているものと思っていました。

いえいえ、その場のノリなんです(笑)。九割九分、勢いなんです。打ち合わせの席で誰も笑わないようなアイデアを、テレビの前の子たちが面白がってくれるわけがありませんから。

――ある意味、シビアな世界ですね。

ですから、5人のライターさんはアイデアを持ってくるだけでなく、その場で次々と新しい案を出します。何パターンもアプローチを考えて、ようやく切り口が決まるんです。シナリオ打ちの段階で、ストーリーもキャラクターも二転三転します。ですから、第一稿にいたるまでが、めちゃくちゃ長いんですよ。僕が今まで見た中でも、こんな大変な現場は初めてですね。

――年間を通じたシリーズ構成はないのですか?

基本的には、ないと思ってください。たとえば、夏休みやバレンタインデーなどの年中行事は、多少ならライターさんたちの頭の中にあると思います。ただ、年中行事を出して“面白くなるのであれば”やりましょう、という程度です。たとえば「ハロウィンでないと、このネタはできないよね」、「これをやるならハロウィンしかないでしょう!」と、そこまで煮詰められたアイデアならやります。だけど、こんなに年中行事に縛られてないアニメは珍しいかもしれません(笑)。妖怪たちのキャラクター付けも、基本的な設定こそありますが、「こういう性格に寄せたほうが面白い」「実は、こういう部分もある」と、打ち合わせの中でふくらませています。



――主な視聴対象は子どもだと思うのですが、子どもに見やすいアニメにするための工夫は何かありますか?

自分が心がけているのは、カットをせわしく変えないことです。『妖怪ウォッチ』は、実はワンカットが長いんです。何が起きているのか落ち着いて見られるよう、長めの“舞台的”なカットをベースにしています。ただ、長いカットに固執しているわけではなく、ギャグが面白くなるのであれば、派手なカット割りも使います。

――“舞台的”というと、キャラクターの全身をとらえたロングの絵が多いという意味ですか?

はい、ロングであるだけでなく、キャラクターたちに“体で表現させる”という意図があります。眉が少し動くだけの繊細な演技は、小さな子どもには、なかなかわかりづらい。子どもにしっかり伝えるためには、怒ったとき、うれしいときを体全体で表現したほうがいいんです。

――子どもたちにとってなじみのある、物語の背景も必要ですね。

「自分が子どもの頃、確かこうだったよな」という気持ちも強く持っていますが、シナリオの打ち合わせでお子さんのいるライターさんから、「今の子はコンビニで時間つぶしたりするよ」「運動会や遠足のとき、今はこんな感じなんだよ」と聞かされて、それをアニメに組み込むこともあります。会話も、いかにもアニメらしい丁寧な言葉づかいではなく、けっこう、今どきの子どもらしい言葉を使っています。それが『妖怪ウォッチ』に親近感をもっていただける理由でしょうね。

――基本的にレベルファイブさんが決められていると思うのですが、キャラクターの色についてはいかがですか?

ジバニャンにしろ、コマさんにしろ、かわいらしさが基本にありますが、キャラクターの心情に寄せてシーンを描く場合があります。たとえば、コマさんが夕陽の中でしんみりしていたり、たまに怖い感じで出てくるときは、基本を守りつつも色をテクニック的に調整しています。背景美術も同様で、ちょっと不思議な場所では色味を変えています。じんめん犬の話で刑務所が出てきますが、子ども番組とは思えない背景の描き込みと色変えでコントラストをつけました。つまり、サブエピソードで思い切りコントラストをつけているからこそ、ケータ君たちが普通に出ているメインのお話を、安心して見ていられるわけです。

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