【中国オタクのアニメ事情】中国で話題になった10月新作アニメとは

中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。

中国のオタク事情、特にアニメ視聴に関するものは次々と変化していまして、ここ1、2年の間に現地の動画サイトが配信権を獲得して正規配信を行う動きが拡大し、さまざまな新作アニメが日本とほぼ同じペースで見ることができるようになってきました。それにより、中国オタク界隈における日本のオタク系コンテンツの人気にも変化が起こっています。

この場を借りて、そんな中国オタク界隈において10月から配信され話題になった新作アニメを紹介させていただきます。



■「Fate/stay night 『Unlimited Blade Works』」
まず、中国オタク界隈で10月新作アニメの大本命とされていたのが「Fate/stay night 『Unlimited Blade Works』」です。放送開始前から注目を集め、配信開始と同時に大量のアクセスを集め、そのまま大人気の作品となっています。しかし、前評判通りの人気となったものの、ファンの反応に関しては日本と異なる部分もある模様です。

実は中国においてFateシリーズの人気が大きく広まるきっかけとなったのは「Fate/zero」(2011年)のアニメで、Fateシリーズのイメージも基本的に、「Fate/zero」によるものとなっています。原作ゲームの「Fate/stay night」も中国オタク界隈における知名度は高かったのですが、ゲームをきちんと体験している人は少数派で、ゲームで描かれた内容に関する知識やイメージはコミュニティ内のやり取りやデータベース、あるいは、2006年に放送されたアニメ版という人も多いそうです。そのため「Fate/stay night」をきちんと体験するのは実質的に初めて……という人も多かったようですし、「Fate/Zero」とは作風が異なるということでとまどいを覚えた人もかなりいたようです。

なかでもヒロイン格のキャラの描写にはとまどいが大きかったようで、「Fateってこんな萌え系の作品だったっけ?」という声も出ていましたし、「Fate/Zero」と共通のキャラであるセイバーに関する解釈、描写の違いについては、「セイバーってこんなに萌えるキャラだったの!?」といった声も出ていました。


■「寄生獣 セイの格率」
10月新作アニメの中で中国オタク界隈の予想をいい意味で裏切り、人気の作品となったのが「寄生獣 セイの格率」です。原作漫画は中国でもマニア層を中心に評判が高かったものの、アニメ版のアレンジや、作品展開に関する情報に不安を感じる原作ファンも多かったのか、放送開始前は悲観的な見方が強かったそうです。しかし、始まってみれば事前の不安をくつがえす好評となり、さらにはマニア層だけでなくライト層までも取り込んだ人気となっています。

「寄生獣」は中国オタク界隈に限って言えば、まさにアニメ化によってファン層を大きく広げることに成功した作品になるかと思われます。以前の中国オタク界隈において「寄生獣」は、「人に薦めても絵で敬遠される」「読んでもらうまでが難しい」とも言われていて、

「読んでもらえば面白いのに」

という評価をされやすい作品でしたが、アニメ化によって原作漫画の描写や絵柄などの受け入れにくいとされていた部分のハードルが随分と下がったそうで、中国オタク的にわかりやすく、手を出しやすい作品となったという話です。

原作をしっかり読み込んでいる人からすればアニメに少々不満なところもあるようですが、現在動画サイトで日本のアニメを視聴している比較的若い世代の人にとって原作漫画はひと昔前の作品になりますから、内容がうろ覚えな人や、大まかな設定やストーリーしか知らない人も多く、アニメをきっかけに改めて「寄生獣」という作品にハマる人がかなり出たとのことです。

もともと、中国のオタク層の嗜好に関しては「ストーリー性の強い作品が好まれる」という傾向がありましたから、絵柄などの引っかかりがなくなったことにより、多くの人が「寄生獣」を楽しめる、ハマるといった状況になったようです。


■「繰繰れ! コックリさん」
10月の新作アニメで女性の中国オタク層の間で話題になった作品には「繰繰れ! コックリさん」や「オオカミ少女と黒王子」などがありますが、「繰繰れ! コックリさん」は男性の間でも人気になっているようです。中国オタク界隈では、昔から妖怪系の作品については一定の需要がありました。オカルト系ではあるものの基本的には、コメディ路線かつ中国オタク的にも楽しめる方向のネタが散りばめられていることから見ている分にも、話題にする分にも格好の作品となった模様です。

また「繰繰れ! コックリさん」の中国語タイトルは、

「銀仙」

となっているのですが、これもいい影響を与えたということです。見ての通り原題の意味は、ほぼ残っていませんが、中国のオタクな人の話によれば結果として中国オタク界隈で受け入れやすいタイトルになっているそうです。

近頃は、中国オタク界隈でも新作アニメは、初動の段階で注目を集めることができるか、人気になるかといったことが重要視されており、途中から面白くなるような作品は、評価はともかくアクセス数で苦戦する傾向があります。そして、中国語タイトルの良し悪しというのは初動の人気に関して無視できない要素のひとつです。初動での人気獲得に失敗した作品の中には微妙な中国語タイトルを付けられてしまったことも影響していると思われる作品もありますし、今回の「繰繰れ! コックリさん」に関する現地の動きを見ていると中国語タイトルの重要さについて改めて考えてしまいますね。


■「デンキ街の本屋さん」「俺、ツインテールになります。」
中国における10月の新作アニメ配信は、いわゆるニコニコ動画的な弾幕コメントとファンサブ系動画を中心に人気を集めていた「bilibili」がアニメの正規配信に参入するという大きな動きが起こりましたが、「デンキ街の本屋さん」「俺、ツインテールになります。」の2作品は、その変化による追い風に乗って人気になった作品と言えます。

「bilibili」は、ほかの大手動画サイトと異なりオタク系の動画に特化したサイトで、コメントによる疑似同期的な視聴体験による強みや、そのコメントを中心に形成された強力なコミュニティが存在します。そこに来て自前で権利を取得した作品の公式配信を自サイトで大きく宣伝したことから、「bilibili」で配信された作品は、初動の注目という点で大きなアドバンテージを得ることとなりました。この2作品はどちらも「bilibili」のユーザーの好みに合うものだったということもあり、スタートダッシュに成功してそのまま順調に人気を獲得していったそうです。

基本的にネットを通じて作品の人気や評価が伝わる中国においては、現地で話題になりやすい「大作」だと認識されている知名度の高い作品、中国に伝わっている情報の多い作品が非常に有利になります。この2作品は放送開始前に伝わっていた情報が少なく、これまでの傾向からすると「bilibili」以外では見てもらう以前の段階で大体の勝負がついてしまった可能性も否定できません。この追い風が今後も続くかはわかりませんが、この2作品の人気からは、作品と配信されるサイトの相性というのも重要だというのを改めて認 識させられました。

紹介した作品以外にも、2クール以上の作品は7月に始まった「アカメが斬る!」のように中盤以降に人気がさらに高まることもあるので、現在徐々に人気の高まっている「七つの大罪」なども今後の動向が気になる作品ですね。


(文/百元籠羊)


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(C) 岩明均/講談社・VAP・NTV・4cast
(C) 遠藤ミドリ/スクウェアエニックス・「繰繰れ!コックリさん」製作委員会
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(C) 水沢 夢・小学館/製作委員会はツインテールになります。

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