【本日配信!】日本の財産として伝統的な人々の生業をいかに未来に残すか……XFLAGスタジオ新作アニメ「約束の七夜祭り」村田和也監督インタビュー
2018年8月3日より配信をスタートした、XFLAG スタジオ製作のアニメ「約束の七夜祭り」。連載インタビューの最終回は、企画当初から原案、脚本にも携わった村田和也監督にご登場いただいた。
「翠星のガルガンティア」や「正解するカド」、「A.I.C.O. Incarnation」といったSF作品で高い評価を得る村田監督だけあって、今作でも緻密に考え抜かれたSF設定の上に物語を構築している。サスペンス、アクション、バトルが盛り込まれながらもセンチメンタルで、ボリュームに満ちた「約束の七夜祭り」ではあるが、数多くの未来的アニメ作品とならぶSF要素を持ち合わせていることに気づかされる。YouTube配信ということでインタビューの読後には、いつでも、何度でも見返し、画面外に積み重ねられた設定を楽しんでほしい。
エンターテインメントの形をとった問題提起
――村田監督は本企画に最初から参加されていたということですが?
村田和也(以下、村田) そうですね。企画プロデューサーにあたる平澤(直)さんと(アニメーションプロデューサー)大上(裕真)さんのお2人から、ミクシィさんでオリジナルアニメの企画を考えているので監督をやってもらえないか、というお話をいただき、ミクシィさんに行って詳しいお話をうかがいました。主旨としては、ゲームアプリに登場させるキャラクター数を積極的に増やしていくためにオリジナルでキャラクターを生み出したい、そのためのアニメを先行して作りたい、というところで。「ですからアニメの内容は自由です」と(笑)。「モンスト」の特徴としてバトルが少しあると嬉しいですが、とは言われましたが、あとは、40分くらいの短編でYouTube配信する予定があるというくらいのゆるさでした。
ただ、平澤さんからは、尺も長くないし単発ものなので、何か仕掛けに沿った作品がいいのではないかという話をいただきました。例えば、ある閉鎖空間に閉じ込められてしまった主人公の脱出劇のようなものはどうかと。それならば逃亡に到るまでの試行錯誤も描けるということで。そのアイデアはアリだと思ったんですが、その脱出すべき閉鎖空間が狭い場所だと見せられる映像が限られてしまうので、アニメで描いて楽しい絵になるか、映像として楽しめるものになるのか難しいかもしれないと考えました。そこで僕自身の嗜好性も加えて(笑)、その閉鎖空間を、日本のとある山奥の集落、ということにしました。村のサイズまで広げるわけです。そこに主人公だけが迷い込めば、必然的にひとりでの行動を迫られます。また、そこで行われようとしているのが秘密のお祭り、部外者に見られてはいけない祭りということにして、主人公が危険な目に遭う、というお話を提案しました。お祭りのモチーフとして考えたのは、部外者が見ると厳しく罰せられるという石垣島の秘祭「アカマタ・クロマタ」とか。
――石原慎太郎が小説のモデルにした祭りですね。
村田 あとは、筒井康隆さんのショートショート「熊の木本線」の不条理な怖さ。それから、祭りではありませんが、主人公がいてはいけない場所に紛れ込んだ緊張感という点ではキューブリックの「アイズ ワイド シャット」といったところですね。ただ、古来から日本に存在する伝統的な祭りに乗っかるのはよくある設定ですし、そのままやっても新鮮みがない気がして、逆に未来的な設定を盛り込んで、ルックは古くても時代は新しいというギャップの面白さを狙いました。
――ただ、ルックが昔風な村と、本当に昔の村と、絵で見せるうえでは区別がつかないかと思います。この村が未来であると感じさせるためにどのような工夫を考えましたか?
村田 ヒロインのひとりであるカンナがホログラムというところがまずは決定的なひとつだと思います。主人公の星真も、昔ながらの山村でホログラムと遭遇することで「ここはどこ?」という感覚を持ちます。で、その驚きが視聴者の驚きにもなれば、と思いました。それによって、途中で登場する武者に関しても、亡霊ではなくホログラムだと想像してもらえると。祭り全体についても、ある理由から人々を集めて開催するために必要な未来的なシステムを、将来実現が可能そうな範囲でいろいろと考えました。たとえば、村人がつけている烏帽子には「紗(しゃ)」のような半透明の布がついていますが、あれは液晶画面のようになっていて、顔の前に下りてくると映し出された情報を読むことができます。つまり、ARですよね。通信機能もあってカンナと通話ができるとか。この辺まではすでに実用化されつつある技術です。
それから、彼らは「憑衣(ひょうえ)」という全身タイツ的なツナギ型の下着をつけています。これは人工筋肉の役割を果たしているんですが、単なる筋力補助装置ではなくて、そこにさまざまな職人のスキルをダウンロードすることができる機能があります。カンナはホログラムなので祭りの実作業はできません。なので、それらは参加者にやってもらう必要があります。でも日本中から集められた参加者はみんな祭りに関しては素人。その素人のみんなに祭りを準備してもらうために、各職種の名人のスキルを提供するわけです。大工仕事や飾り付け、料理など儀式をやるうえで必要な技術を、それぞれの担当者の憑衣に降ろすことで、その仕事を本職と同様にこなせるようにします。集まった人々が素人でも祭りを遂行できるし、各参加者も苦もなく仕事に従事できるので、やっていて楽しいわけですね。
――観光客にも運営や実施を肩代わりしてもらうことで祭りを実現させるシステムというわけですね。訪れる側の負担も短期間で済みますし。
村田 そうです。都会の人間が考えた「都合のいい田舎生活」を実現させるシステムです。現地人になった気分が味わえる、という。僕は、茅葺屋根の集落や田園風景といった日本の伝統的な田舎の景色はすごく魅力があると思っています。が、実際にその場所で仕事や生活を維持することはすごく大変ですよね。僕なんか体力の面で絶対無理だと思いますし。戦後になってもうずっと農業や林業に従事する人は劇的に減りつづけています。が、そんな中でも、志のある人たちが技術や生活を継承されているという事例もたくさんあると聞きます。でも、それを次世代に伝承するには、ボリュームとして(人員が)全然足りないと思うんですよ。であれば、将来的には普段は都市生活を送る不特定の人たちが、行楽の一環として農作業や集落の維持を交代でまかなう、という方策があってもよいのではないか、むしろそれが主流になっていってもよいのではないかと考えました。田舎での仕事自体が楽しい体験になっていて、その農村にいる間はプロの農業家になれるというなら、次から次に新しい人が入れ替わることで田舎もそこでの暮らしも維持可能だと思うんですよ。使われている技術も含めて、将来は実現可能じゃないかという気がしています。要は、日本の財産として未来に残す方法として、伝統的な人々の生業を、実益のあるレジャー、レクリエーション、エンターテインメントに置き換えるといいのでは、という僕なりのアイデアです。
――村田監督はアニメタイトルを手がけるとき、毎回、画面に出てこない設定をそれだけ作り込んでいるんですか?
村田 考えます。というか、それが好きなので。この間までボンズさんで作っていた「A.I.C.O」もそうですし、その前の「翠星のガルガンティア」では新しい生活様式の提案として、自由に移動可能な船を単位にした、組み換え可能な都市生活を考えました。アイデアをどうしたら作品にできるのかを考えるのが楽しいですね(笑)。
脱出劇から目的を達成する高校生の物語へ
――物語が二転三転したというところもあったと前野プロデューサーにお聞きしました(連載インタビュー第1回参照)。
村田 結果として、主人公と祭りを行う人々との関係性がこの作品の肝の部分になったのですが、最初は、秘密の祭りを目撃して捕まりそうになるとか、集落から逃げ出そうとしても逃げ出せないという駆け引きの面白さで見せようと思っていました。でも、話を考える中で、志織には祭りで会いたい人がいる、そのための祭りにしたいと思い至って、そうなった時に、志織や志織と同じ思いを抱いて祭りに集まった集団と、星真との間にアンバランスさができてしまったんですね。でも設定としてはそっちの方が魅力的に感じる。で、そこを埋める必要が生じました。星真がこの不思議な祭りに出遭ったのは偶然だったのか、それとも必然性があったのか、そして単なる脱出劇として描いてよいのか、そこを詰めていく中でお話の作り方が変わっていきました。
――最初は偶然だったわけですよね。迷い人みたいな。
村田 そうです。廃村探検とか、きれいな星の写真を撮れるスポット探しの結果としてたどり着いたとか。でも、もっとはっきりと、ここに来なければいけない理由があって来たほうがいいと。彼がここを訪れる理由とここで行われる祭りとがもっと本質的な繋がりがあった方がよいだろううことで、昔の友人から誘いを受けたという流れになりました。その友人と会うことが目的ならば、祭りに集まった人々とのモチベーションのバランスが取れると考えたんです。となると、最初に思い描いていた脱出劇とは違ってきます。そこでその縛りをいったん取り払いました。縛りがなくなった代わりに物語がすごく流動的になってしまいました。「では改めて、どういうお話にしましょうか」みたいな(笑)。作品の内容を練る過程で出てきたアイデアによって、作りたいもの、作られるべき作品像が変わってしまったということです。
そういう諸々があって、作品の着地点をどこに設定するのがいいか、そこを見出すのに時間がかかりました。
――着地点について決定的なアイデア出しをされたのは?
村田 ミクシィのシナリオライター・福島さんからのご提案でした。星真の旧友である敦史と星真の2人の関係性を基軸に、志織、祭りの進行役であるカンナがそれぞれに思いを抱きつつも、祭りを成し遂げる方向に三者の思いがリンクした、というところで結実した感じがありました。
――最初の脱出劇からすると、着地点は全く逆になりますよね。
村田 「ここから帰りたい」から「ここにいなくては」に変わりましたからね。
――そのいっぽう、人々の思いまで描くことになったことが当初の40分からボリュームが増えた理由でしょうか?
村田 はい(笑)。でも、村からの脱出劇で、しかも祭りをモチーフにした時点で尺が伸びる要素はありました。描かれるべき登場人物と段取りが増えますからね。ふくらんだイメージからすると本当はもっと尺が欲しいのですが、物理的に完成させられないといけませんし。なので一度切り終わったコンテをバッサリ捨てて、200カットくらいを欠番にしました。
――制作に入ってから苦労されたところは?
村田 僕が危惧していたのは、星真と志織と村人たちの物語と、武者達とのバトルのバランスですね。明らかに異質であることは変わらないので。視聴者にどういう心地でそのシーンを見てもらうか、そのバランスのとり方が一番難しかったですね。武者が登場することの整合性として、集落は昔、城跡だったところで怨念を持って死んだ人たちがたくさんいる、というバックボーンを作ってはいました。
が、古い日本的ビジュアルでやるとは言え、近未来的志向がある現代劇の中で、武者の亡霊たちが出てくるというのはやはり違和感があります。なので、その違和感を取り込んだうえで、怖さやバトルの気持ちよさみたいなものに転化しようと考えました。
たとえば、星真や志織が感じる恐怖感ですね。ホログラムを「さわれる」ものとすることで、霊が生身の人間に対して危害を及ぼすかもしれないという表現を取り入れています。この「触れるホログラム」は、実際に開発されつつある技術ですが、本作ではそれをさらに発展させています。もうひとつとして、武者の存在によって、星真の「変な場所に来ちゃった」という思いが増幅されます。その意味ではまだ、脱出劇的要素も生きてはいるんです。
――実際、星真は最初、村から逃げ出そうと行動します。
村田 でも、いっぽうの志織には、村から去るわけにいかない事情があります。そこで、危機を乗り切って祭りを成就させるんだ、という強固な理由を持っていると再確認できるわけです。だから、(武者は)一見イレギュラーな出来事ですが、星真と志織が心の底に抱いている感触の違いを表に出すリトマス紙になっていて、ドラマの中の必然として用いています。
また、この武者の亡霊という異物の存在は、ある意味本作がXFLAG スタジオのタイトルという枠の中にいるという存在証明でもあると思っています。そこから入ってくる視聴者が最初の視聴者となるでしょうし、いくら内容が自由でいいといっても、最初の印象として、その枠組みの中で見たかった作品だと感じてもらう必要はあるかな、という思いはありました。
――その意味では「バトル」というのは重要な要素で、XFLAG スタジオ側が入れてくれるようにお願いしたのも納得ですね。
村田 そうですね。ただ僕自身がバトルものの経験値もバトルに対する欲求もそれほどないので、オーダーとしてこなせるかどうかが心配でした(笑)。その意味では今回の中で一番ハードルが高かったかもしれません。
――志織役の山本希望さんは、音響監督の明田川仁さんからあまりとまどわないように、と言われていましたが(連載インタビュー第2回参照)、志織はみずからあの境遇に身を投じているという理由からでしょうか?
村田 そうです。それと、視聴者にはあくまでも星真視点で物語に入っていってほしかったので。志織は言ってみれば村人代表で、志織の心情って村人の心情なんですよ。だから星真とはまず対峙する立場として登場してほしいというのがありました。だからまず戸惑うのは星真であって志織ではないということにしたかった。
――星真のバディとして一緒に行動しますが立場として違いがあるんですね。
村田 はい。ただし、村人の中で唯一星真の側に立って行動できるのが志織ではあります。
――星真と村人をつなぐ緩衝材の役目ですね。
村田 そう。そこが志織の特殊性でありヒロインたるゆえんでもあります。
――今回はオーディションではなく指名でキャスティングを決められたということですが、斉藤さんと、山本さん、嶺内さんを選ばれた理由はどういった意向だったのでしょうか?
村田 まずは明田川さんに、既存のモンストキャラと被らない方で本作の役に合いそうな人を十数人チョイスしてもらい、その中から声のサンプルを聞いて選んでいきました。星真は、現実の高校1年生男子の生っぽさを自然に出せる方、というのを一番のポイントとしました。視聴者の側を代表できる身近さ、等身大感ですね。志織に関しても、同じく生っぽさと、そして清涼感。また洗練された、知的な感じがありつつ、自分の思いに対して一途にふるまえるという振幅。坦々とした自然な日常感と、感情があふれた時の振れ幅を大きくとれる表現力を求めました。あとは、役柄から、お姫様っぽさがある声質の方を選ばせていただきました。
――AIであるカンナは少し難しかったのでは、と思うのですが。
村田 カンナは難しかったですね(笑)。どういう風にでも持って行ける可能性があったので。まだ子供と言えるような年齢感の中で、淡々とした物言いの中にも独特の風味がほしいと思ったんですが、それをどの方向に出すかという選択肢がいくつかあって。アニメっぽく記号的に振り切るか生っぽく行くか、クールかマイルドかなど含めて。いくつかある選択肢の中から(配信された)あの形を選ばせていただきました。
――正解がいくつかある中でのひとつの選択肢というところですか?
村田 そうです。最後まで候補として残した方々の中にも全然ベクトルの違う方が含まれていましたし。結果としてかなり生っぽく淡々とした感じになって、独特の風味が出せたと思います。こいうルックのキャラクターは、記号化されやすいと思いますが、固有の存在感を獲得できた気がします。
――今作はYouTube配信アニメですが、その点は意識されましたか?
村田 いえ。そこは意識しませんでした。が、メインターゲットが中高生というところは意識しました。わかりやすさや親しみやすさといったことからくる間口の広さ。それから、視聴者にとって日常感と非日常感の境目がどのあたりにあるのか、ですね。あとは、パッケージ化される前提がなかったので、見ている間が楽しければいいという考えではいました。パッケージ化商品の場合、観るだけでなくあとで買いたいと思うモチベーションを発生させなければいけないのですが、そこからは解放されていましたね(笑)。
――最後に、視聴するうえで監督として見てほしいポイントはありますか?
村田 まず、星真と一緒にこのお祭りを存分に楽しんでほしいですね。それが作品を作った最大の動機なので。お祭りの参加者として、ひと夏の不思議体験を味わってもらえたら嬉しいです。そして、中高生に向けた作品ということで、僕からの勝手な問題提起に対して、できればみなさんがそれぞれに感想を抱いてほしいです。未来のあり方に対してなにかひとつ、自分なりの考えをぜひ。ぱっと見そういうふうに見えないかもしれませんが、いちおう「未来提案型作品」なので(笑)。
(取材・文/清水耕司)
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